ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

大人になる心臓

先天性心疾患を持って生まれた子供たちは、自分がどんな病気なのかをわからない。わけのわからないまま、検査入院手術を繰り返し、生き残ったものたちが成人になっていく。その間、病気のことは親が必死に調べたりしている。当の本人は気楽なもので、病名すら知らず、二十歳を超えることなんてこともある。

おいらもそんな一人だった。おいらは、子供の頃3回手術を受けた。3回目に受けたのがAPCフォンタン手術で、それによりチアノーゼがなくなり体が劇的に良くなった。元気になると病院にも足が遠のき、しばらくは通っていた外来もやがてほったからかしとなり、20数年の月日が流れた。

しかし、フォンタン手術には落とし穴があった。長期経過後にはさまざまな合併症が起こりうるのだ。30歳を超えた頃から、おいらの体も合併症がぼこぼこと沸き立ってきたのだった。そして、30代後半になるともう待ったなしの状態になった。不整脈が連日のように襲い、足がむくみ、息苦しく、だるくなった。そしてフォンタン再手術へ向かう第二の闘病生活が始まった。

合併症が起こる前の10代、20代のころは黄金期だった。好きな食べ物や飲み物を好きなだけ食べ飲み、夜更かしし、狂った生活習慣をおくったりした。もちろん今はそんなことはできない。食事制限や水分制限は強く、規則正しい生活を送らなければすぐに体調を崩してしまう。制限を受けるほど、カツ丼がっつきたい、炭酸飲料がぶ飲みしたいなどバカかな欲求が膨らんでしまい、黄金期を懐かしむ。しかし、おいらがもっと真剣に病気に向き合っていたなら、もしかして黄金期はもっと延ばせたかもしれない。第二の闘病がはじまったとき、主治医の先生からも診察に来るのが遅かったと言われた。フォンタン再手術を受けても、もう回復が十分期待できないレベルだったのだ。

こんなおいらのような状態にならないためにも、先天性心疾患の子供たちは自分の病気のことをしっかり勉強する必要がある。親もまた子供に、つらい情報も含めて教えていくことが大切だ。それは、その子が生きる上で不可欠なことだ。医学の進歩により、先天性心疾患の子供が生き残る確率はずっと高くなり、成人になる人がどんどん増えている。その数は日本だけで40万人と言われる。今医学界では、成人先天性心疾患が新しい分野として確立しつつある。

先天性心疾患の患者にとって生き残る壁は低くなった。次はどうやって豊かな生活をおくれるかが課題になってきた。おいらの少ない知識ではあるけれど、先天性心疾患の人々が豊かな生活を続けられるように、少しでも有益となるような知識をこのブログで伝えていきたい。