ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

フォンタン術後の長期死亡要因

昨年、フォンタン患者の長期予後に関する論文が新たに発表された。

Tarek Alsaied,Jouke P Bokma,Mark E Engel,Joey M Kuijpers,Samuel P Hanke,Liesl Zuhlke,Bin Zhang,Gruschen R Veldtman. 2017. Factors associated with long-term mortality after Fontan procedures: a systematic review. Heart 103: 104-110.

大変興味深い内容だったので読んでみたのだが、難しくてあまりよく理解できなかった。わかった部分をおおざっぱに解説すると次のような内容だった。

 論文はレビュー論文(新たに実験してデータを取ったりするのではなく、先行研究の論文を沢山調べてこれまで発表された知見を整理する論文)。数ある論文の中からいくつかの条件を満たす28の論文(6707の患者のデータ)についてまとめた。

 その結果、6707人の患者のうち、1000名が死亡した(平均年2.1%の死亡率)。フォンタン術後の死亡要因は、35種類に分けられた。そのうち特に要因として多かったのが、*心不全(heart/Fontan failure, 22%)、*不整脈(16%)、*呼吸不全(15%)、*腎疾患(12%)、血栓症(10%)であった。このほかに、*フォンタン術を1990年以前に受けた人、左心低形成症候群(または、*解剖学的に右心室が体循環を担っている人)、*7歳以上でフォンタン術を受けた、*APCフォンタンの人、*術後ドレーン留置が長かった人、フォンタン圧が20mmHg以上、左心房圧13mmHg以上、*不整脈、*心不全血栓を持つ人、*蛋白漏出性胃腸症、鋳型気管支炎、*肝硬変、*低ナトリウム血症、*BNPが高い人などである。(*印はおいらが該当する要因)。

 この論文でも改めてわかるように、おいらは死亡リスクの高いフォンタン患者であるようだ。だから、今こうして比較的元気に生きていられるのは奇跡的なことかもしれない。実際、おいらの親は昨年の地獄入院のときの様子を知っているだけに、奇跡だ奇跡だと今だにいっている。でもこの程度で奇跡は終わらせたくない。今はまだ就活中、リハビリ中で、人並みの日常生活を送れていないけど、いつか定職に就き、仕事をして給料をいただき、家族を養い、休日や趣味を楽しみ、という生活を送ってやるのだ。障害施設連続殺傷事件以来、障害者は社会に不要などという意見も耳にするが、このおいらが不要でないことを証明してやるのだ。グレートな研究成果をあげて、人類に貢献するのだ。それは夢のような話だけれど、今までこんなに奇跡的な人生を送れたのだから、これからも奇跡が起こるんでないかい、と淡い期待を抱いているのである。