ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命についてつづるよ。

人工心肺、結構心配

手術の6日前に入院が始まった。入院するとすぐに、レントゲン、心電図、CT、採血、エコー、肺機能検査と、休む暇なく検査を受けた。さらに、その頃はPLEが再発していたため血中タンパクがかなり低く、点滴でアルブミングロブリンの補充も受けた。タンパクの点滴補充は手術の前日まで何度も続いた。また、心臓の機能が落ちていたため、コアテックという強心剤を点滴されたが、相性が悪くすぐに不整脈が出て余計苦しくなった。しかし何を考えているのか、翌日もコアテックを打たれ、当然不整脈が出て中止になった。また、手術後に脳機能の異常が起きる可能性がないかを確認するため、脳のMRI検査を受けた。そのほかにも、外科医、内科医、麻酔科医、ICUの看護師などからそれぞれ手術に関する説明があり、手術後にどのような状態になるかなど詳しく説明された。こうして、手術までの数日間は慌ただしく過ぎていった。でもこうした検査や説明を受けたことで、心の準備が整い手術への不安も和らいでいった。 

 そして、手術当日となった。前日の夜はさすがに3時ごろから寝れなかった。朝9時から始まるため、朝食は取らず浣腸をされた。手術室には確か車椅子に乗って行ったと思う。すでにこの数年、カテーテル検査やアブレーションを何度も受けていたので、手術室の雰囲気は慣れていた。手術室の並んだ病棟には大きな自動扉を開けて入る。中の壁はみな薄い青緑色で、以外にも蒸し暑く消毒液の匂いがムンムンに立ち込めていた。医者や看護師の着ている服もほとんどは同じ青緑色でたまに、黒やピンク色の人もいた。 

 しかし、いざ手術室に入ると、カテーテル検査室とはやはり全然違っていた。手術台の上のライトは桁違いに大きかった。部屋の大きさはそれほど大きくなかったが、手術台は想像していたより大きくゆったりと横になることができた。しかし何より一番驚いたのは、人工心肺装置だった。そいつはとても大きく、おそらく横幅と高さが1.5mはあっただろう。透明のチューブや菅が無数に絡み合っていて、すでに菅の中にはおどろおどろしく赤い血液が満たされていた。この後、おいらはこいつに繋がれるのだ。そして、おいらの血液がこの装置の中に流れていくのだ。なんだかこの装置自体が生きているのような気配すら感じ、この化け物に自分の命が吸い取られそうで、急に恐ろしくなってしまった。

 おいらは自力でベッドの上に乗り寝転ぶと、これから始まる身の毛もよだつ生体解剖を想像し、早く寝てしまいたかった。カテーテルの時もそうだったが、これまでは麻酔がうたれる前に色々な電極をつけたり、シールをつけたり、あるいは点滴を打ったりなどの準備があり、なかなか手術本番が始まらなかった。その間、意識があるので恐怖心がどんどん膨らんでしまうのだ。だが、この時は幸運にも手術台の上に寝転ぶとすぐに眠らせるガスを吸わされ、あっという間に意識を失っていった。次に目が覚めたのは、それから4日後の事だった。