ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

天国から生き返る果実

しばらく、暗い話が続いてしまったので、今日は大好きな果物の話をしよう。おいらの住んでいる南の島では、今パッションフルーツが旬である。スーパーなどで一つ100円くらいで売られている。中を開くと、黄色い果汁とカエルの卵を思わせる黒い種子がたくさん入っている。一般的な食べ方は、果汁と種子をスプーンなどですくってそのまま食べる。しかし、その食べ方だと見た目もグロいし、種子も舌触りが悪く、正直あまり美味しいとは思えなかった。そのため、最初に食べた時は二度はないなと思ったのだが、最高に美味しい味わい方を発見し、今ではほぼ毎日食べている。

 その食し方とは、甘酒スムージーに混ぜる方法だ。昨年の地獄入院以来、甘酒は毎朝欠かさず飲んでいることはすでに何度かお話しした。いつもは、冷やした甘酒を、野菜ミックスジュースで割って飲んでいた。それだけでも、野菜ジュースがマイルドな味わいになり十分美味しい。そこにパッションフルーツの汁を加えるのだ。その際、ザルや茶漉しを使って、汁だけをこしとり、種子は取り除く。そうするとパッションフルーツ一個から取れる果汁はせいぜい20ccくらいにしかならない。それで100円だから随分と高く感じてしまうが、実際は十分すぎるほど価値があった。とった果汁を小さじ1、2杯ほど野菜甘酒ミックスに入れると、まるで別世界の風味と味わいになったのだ。一口味わうだけで、甘い香りとほのかな酸味がパッと広がり、世界が明るく輝くのだ。ちょうど少女漫画の乙女がときめいた時、画面いっぱいに花びらが散らばったような感じだ。なんだか気持ちまでルンルンになってしまう。

 もう一つ美味しい飲み方は、甘酒と牛乳、レモン汁、そしてパッション果汁数滴を混ぜたものである。レモン汁を加えることで、牛乳が分離してヨーグルト状になるだけでなく、酸味でより爽やかさが増す。それにパッションの甘い香りが加わることで、牛乳や甘酒の匂いがなくなり、マンゴーラッシーのような味わいになる。そこらのインドカレー屋で出るラッシーよりはるかに美味しい。個人的には今まで飲んだラッシーの中で最高である。

 正直、パッションフルーツのうまさは衝撃的だった。子供の頃から、果物が大好きで特に桃、梨、ブドウ、リンゴが好きだった。南の島に来る前に住んでいた地域は、そうしたフルーツの一大産地で、旬になると浴びるほど食べまくった。まさに桃源郷だった。パッションフルーツの味わいは、それに勝るとも劣らない美味しさだったのだ。むしろ予想を裏切る、想像を超える美味しさ、そしてハズレがないという点である意味優っているかもしれない。桃や梨などは時々甘くなかったり、味がボケているなどハズレがあるが、パッションは常に安定した味わいを出してくれるのだった。桃源郷を超え、天国のような無限の幸せをもたらした。

 でも、桃、梨、ぶどう、りんご、パッションフルーツなどよりも本当に最高の幸せを感じさせてくれた果物は、スイカである。2年前のフォンタン再手術の後、最初に出た食事に出てきたのがスイカだったのだ。ご飯やおかずなどはほとんど食べることができなかったが、スイカだけは赤い部分がなくなるまで削って食べた。その水々しさは、直接水を飲むよりも、喉を潤した。感動のあまり、涙が出てしまった。手術の後、数日間ほとんど水分を口にできない極限状態だったため、特別美味しく感じただけのことかもしれない。例えそうだとしても、それは二度と味わうことができない至極の美味しさだったのだ。手術から生き返ったことを実感する幸せの一瞬だった。

 先日、スイカで生き返ったその日からちょうど2年目だった。常に安定した天国のような味のパッションフルーツと、一度しか味わえない生き返る味のスイカ、その両方を食べ、至福の1日となった。