ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

旅は入院の始まり

子供の頃、手術入院の前にはご褒美として特別な旅行に連れて行ってもらえた。ある時はディズニーランドへある時はグアム旅行だった。入院前で気持ちは落ち込んでいたが、その時ばかりは入院のことを忘れ、無我夢中で楽しんだ。そのためそれらの旅行はとても楽しい思い出として今でもよく覚えている。そんなわけで、おいらにとって旅行と入院はセットに起こることだった。よく、良いことの後には悪いことが起こると言われたりするが、まさにそんな感じである。

 先日の九州旅行は無事行くことができた。台風は運よくそれて、LCCの飛行機も順調に飛んだ。宿は予想以上に素晴らしく、温泉や料理を満喫した。旅先の景色は、雄大な山々や草原が美しかった。人も少なくとても静かで開放的な空間だった。とても良い思い出になった。しかし、これまでの経験通りなら、次に来るのは入院である。実際、次の検診でCT検査が予定されており、9月ごろには大腸ポリープの切除手術を受ける予定にある。CT検査の結果次第では、さらなる入院の可能性がある。楽しい旅行を味わってしまった以上、もう避けられないだろう。

 人の人生の最後は死である。一般的には死は悪いことと捉えられている。確かに、幸せに楽しく過ごしていた時に、突然死が訪れればそれは大変辛いことだ。しかし、病気などで痛くて苦しみ続けていた人にとっては、死は苦しみから解放される良いことに感じるかもしれない。手塚治虫ブラックジャックという作品では、治療手段がなく苦しみ続ける患者を安楽死させるドクターキリコという医者が登場する。ドクターキリコは、主人公ブラックジャックのライバルとして作品に深みを与える役割でもあるが、単純な悪役として描かなかったことからも、手塚治虫自身キリコの考え方を完全に否定できない葛藤があったのかもしれない。おいらも、地獄入院の時には死を望んでいた。

 おいらの死が、どのように訪れるのかはまだわからない。楽しく過ごしている時の突然死なのか、入院して苦しみ続けたのちの死なのか。どちらにしても、それが遠い未来ではないことは確かであろう。それまでに良いこと悪いことをたくさん味わっておこう。