ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命についてつづるよ。

りんごが赤くなると医者は喜ぶ

りんごが赤くなると医者が青くなる。栄養のあるりんごを食べていると病気にならず医者いらずという意味のことわざで、世界にも類似のことわざが存在する。しかし、このことわざ、医者にとってはずいぶんと失礼な話で、全くもって正しくない。

 前に住んでいた地域の知人の方々が立て続けにりんごを送ってくれた。皆おいらやおいらの家族を心配してくれたのだ。その地域は日本有数のりんごの生産地で、この時期の贈り物といえばりんごだった。さらに、りんごをもらう少し前においら自身もりんごをお取り寄せで箱買いしてしまっていた。だから、今おいらの家には100個以上のりんごが備蓄されている。果物大好き、りんご大好きなおいらにとっては天国のような状況である。

 当然毎日りんごを食べまくっている。朝食の時に食べ、夕食後に食べ、時には仕事から帰った後おやつに丸々一個かじったりもしている。それだけ食べても全然飽きない。それどころが、なぜかリンゴジュースまで買ってきたり、アップルティーを飲んだり、りんご味のガムを噛んだりすらしている。かた時もりんごの味から離れたくないような有様である。

 ひたすらりんごを食べたことが功を奏したようだ。おいらの血中タンパクはメキメキ上昇し、3月に南の島に引っ越して来て以来、最高値に達した。総タンパク6.7、アルブミン4.1、IgG1048とおいら史上の中でもかなり高い値である。ほんの1ヶ月ほど前は入院を宣告されるほど危機的な値に下がっていたのに、一体どうしたというのだ。その間対処したことは、利尿剤を増やして水分コントロールをしたことくらいだ。だが以前だったらそんな小手先はとても通じなかった。一度タンパクが下がると、アルブミンを静注しプレドニンを大幅に増量するしか対処法がなかった。しかし、今回はそうしたことを一切せず、劇的に改善したのだ。美味しいりんごを好きなだけ食べて、しかも健康になれるなんて、夢のようである。

 そうしておいらが回復したことを、おいら以上に喜んでくれたのがおいらの主治医の先生だった。先天性心疾患に関しては、患者の体調がどんなに良くなっても、医者いらずというわけにはいかず、定期的な診察は欠かせない。りんごを食べて患者が元気になろうが、仕事は減らないのだ。むしろ、患者を入院させないようにすることが、医者の腕の見せ所である。定期診察を怠っていないのに、患者が次々と体調を悪化させてしまったら、医者の面目丸潰れである。だから、赤いりんごは医者を青くするのでなく、喜ばすのである。