ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

クールな患者

連日、輝いて見えるオリンピック選手の中で、異色のクールさを醸し出す選手がいる。スノーボードハーフパイプ平野歩夢選手だ。まだあどけなさの残る顔立ちと今風の若者の風貌とは裏腹に、一貫して落ち着いた立ち振る舞いはサムライを思わせるようで、今世界中の女性を虜にしている。女性だけではない。男から見ても惚れてしまうかっこよさがある。おいらもまた、じわじわと彼のかっこよさに引き込まれてしまっている。

 スノーボードハーフパイプは、徹底してかっこよさ、クールさを求める競技である。おいらが初めてこの競技に興味を持ったのは、8年前のバンクーバーオリンピックを見たときだ。この時、圧倒的なトリック(技)を披露して金メダルを獲得したのが、今回平野選手と激闘を繰り広げたショーンホワイト選手であった。それまでハーフパイプという競技自体知らなかったが、初めてショーン選手を見たときあまりのかっこよさに鳥肌が立った。その時の彼の風貌は、パーマのかかった長髪とダボダボのデニムを履いていて、今の平野選手のような今風の若者だった。でも、それもまた技のキレを際立たせてかっこよかった。

 それから8年。王者ショーンはまさに王様の貫禄になった。髪は短く刈りそろえられて、渋みが増した。が、いざ競技を終えると大声で叫びながら、ヘルメットも投げ捨てて全身で喜びを爆発させていた。それに対し、平野選手は対極にあるような静寂を保っていた。全ての競技が終わり自分の順位がわかった瞬間も、一切表情を変えず静かに佇んでいた。そんな平野選手の姿は、最初はなんだか気取っているように見えたが、徐々にかっこよさが際立ってきた。ショーン選手の衝撃的なかっこよさとはまた違った、気品のあるかっこよさだった。女性じゃないけどキュンってなりそうだった。

 そういえば、おいらもつい最近、おいら史上最高レベルの検査結果を叩き出したじゃないか。IgG1272。平野選手がキメたDC 1260にちょっと似てる!でも平野選手は、その前にさらにレベルの高いDC 1440を2連続できめてるよ。ならばおいらも次はIgG 1400越えしてやるぜ。そして、これからはどんな痛い治療や検査も顔色一つ変えずクールに耐えてやる。こりゃ病院がざわつくね。