ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命についてつづるよ。

フォンタンマスターへの道:水編

 先天性心疾患者にとって、体内の水分量コントロールは極めて重要な課題だ。多過ぎれば、体が浮腫むだけでなく血液量が増えて心臓に大きな負担がかかる。しかし、少なければ脱水や血栓のリスクが高まる。この点は、フォンタン患者には、特に難題である。フォンタン患者はただでさえ静脈圧が高くなりやすいため、水分が減って血がドロドロになるとますます静脈圧が上がってしまう。静脈圧が上がれば、腎臓、肝臓、消化管など様々な臓器が鬱血してやがて機能不全を起こしてしまう。だから、しっかりと水分は取る必要がある。でももちろん多ければそれだけ心臓の負担が大きい。それはまた心不全の原因になり、静脈圧の上昇と多臓器不全を導く。どっちにしても大きなリスクがあり、絶妙な水分コントロールが要求される。

 そのため、多種の利尿剤を併用服用しているフォンタン患者が多いだろう。おいらもまた、3種の利尿剤を毎日服用している。どの薬をどの程度使うかの見極めはまたとてつもなく難しい。患者の病状、年齢、性別、体重などによって異なり、一般的な正解がないからだ。同じ患者でも、経過年数によって薬の効き方が変化する。だから、日々定期的な診察によって、投薬量を調節していく必要がある。

 水分コントロールは、患者自身の自己管理が不可欠である。医者任せにしてはいけない。入院している時ならば、摂取した水分量と尿から出た量を定量的に計測する場合が多いので、医者任せにできる。しかし、自宅では自分で摂取量と尿量を把握する必要がある。とはいえ、厳密に計量する必要はない。あくまで感覚的に、摂取した量が多いか、出た量が多いかを感じ取っていく。そして体の変化を敏感に感じ取ることだ。水分が多ければ、体のどこかにむくみが出る。朝起きた時は顔がむくみ、夕方には脚がむくむ。だから、毎日朝晩の顔や足のむくみは確認すべきだ。体重の変化も毎日見ておく。急激な増減は避け、なるべく一定の体重を維持する。そして、自分の体調が一番良いと感じる時の体重を見極めるのだ。おいらの場合は、50〜51kgの間が現在はベストな体重である。

 薬の量に関しても、積極的に自己管理すべきである。日常の体調や尿量などから判断して、利尿剤の量を減らしたり増やしてもらうよう主治医に提案して構わない。もっと言えば、処方された量も律儀に守って服用せず、水分が抜けすぎると思えば、こっそり減らしたっていい。ただし、処方された量以上に飲むのは控えた方が良い。こうして利尿剤の量を医者と相談できるようになれば、やがてある種の利尿剤を頓服薬的に処方してもらえるようになるだろう。つまり、自己判断で利尿剤を飲んだり飲まなかったり決められるようになるのだ。

 優れた武闘家は、心技体のバランスを保つことができる。フォンタンマスターは、心(心臓)・水(水分)・体(体調)のバランスを保つことができる。おいらはそれを会得するのに、5年近い歳月がかかった。フォンタンマスターの道は険しいのだ。