ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

4本の命綱

おいらが障害者生活を送る上で、命綱とも言える4つの公的社会福祉制度がある。障害者手帳、障害基礎年金、指定難病医療費助成制度、そして住んでいる市町村による重度障害者医療費助成制度の4つである。幸いなことに、おいらは現在この全ての制度を利用できており、その結果、一時的な自己負担医療費は少なく、かかった医療費も後日全て返金され、さらに年金を受け取り、そして税の軽減、公共料金や公共交通機関の割引などの惜しみない恩恵に授かっている。それらのうち指定難病以外の3つがこの6、7月に更新時期をむかえている。

 新規にしても更新にしても、これらの制度を受けるには大体医師の診断書などを元にした審査が必要になる。それぞれは独立した機関によって審査されるため、一方が通っても一方が通らないことはある。例えば、指定難病に認定されれば、障害者手帳は必ずもらえそうな気がしそうだが、もちろんそんなことはない。難病であっても生活上に著しい制限がなければ障害者手帳をもらえないのだ。障害基礎年金は、障害者手帳の有無や指定難病であるかなどは問わないが、障害者手帳をさらに厳しくした基準で日常生活の制約度や安静状態を審査される。一方、市町村による重度障害者医療費助成制度は診断書は必要でないが、障害者手帳の等級で決定される。

 これらの制度を審査の厳しさから見ると、障害基礎年金>重度障害者医療費助成>障害者手帳>指定難病となるだろう。さてこれらの上位3つの更新時期が迫ったおいらは、継続できるかがかなり不安である。これらの制度を新規で申請した2年ほど前は、現実に酷い障害状態だった。とても働ける状態ではなく、入院していたか退院後もベッド上の生活が続いていた。それから奇跡的に回復し、昨年度から幸いに新しい職を得て仕事を始めることができるようになった。だから、客観的に見れば障害の程度は少なからず軽減していると診断されるだろう。

 ペースメーカーが入っていることもあり、障害者手帳は継続できるだろうが、等級が下がる可能性はある。そうなれば重度障害者医療費助成は受けられなくなる。さらに、審査がより厳しい障害基礎年金なんてとてもじゃないけど無理である。もう、回復して働けるようになったのだから、支援を受ける必要はないし権利もないと言われればその通りかもしれない。でもおいらにとっては、どれも切実な命綱だ。4つの命綱でしっかり支えられていることで、長く体調を維持し安心して働き続けることができている。綱が切れれば、経済的負担が増えるだけでなく、それを補おうと生活や仕事の面でどうしても無理をしなくてはならなくなり、結果無理がたたって体調が悪化する。そんなことを考えていたら、早くも夜中に胸が苦しくなり目が覚めてしまうのであった。