ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

Smoke Gets in Your Eyes

最近もまだ夜中に息苦しくなる。水分コントロールがうまくできず、水が抜けたと思ったらまたすぐに溜まり始めてしまうのだ。水による息苦しさとはまた違った感じで息苦しくなるものが、タバコの煙である。昔はそうでもなかったが、最近はちょっとタバコの匂いがするだけでも、呼吸困難になってしまう。もろに煙を吸った日には全く息ができなくなってしまうのだ。ふざけてドライアイスの煙を吸ったことがある人ならわかるかもしれないが、感じはそれとよく似ている。空気を吸いたいと思っても、肺に入っていかないのだ。

 そんなわけで、おいら自身はこれまで一度もタバコを吸ったことも吸いたいと思ったこともないが、受動喫煙はそれなりに浴びてきた。そもそも両親が子供の頃、普通にガバガバ吸っていた。家の中でも時には車の中でも。重度の心臓病の子供の前でタバコを吸うなんて、今考えれば虐待と言われかねないが、その時はおいら自身も全然気にならなかった。それにおいらには分からずも、両親なりにそれなりに気をつけていたかもしれなかった。

 次に煙を浴びまくったのは大学生の頃だった。サークルに入り、部室に行くとその中はいつも煙で充満していた。髪の毛も肌も着ている服も全身タバコの臭いがこびりつき、目はしみてヒリヒリし、いたるところがべたついた。今のおいらだったら即死するほど最悪な環境だった。だがその頃はおいらの黄金時代で、煙が充満する部室に何時間いても平気だった。つまり、それだけその当時のおいらの循環器系は正常で強かったんだなと改めて思う。

 近年は、喫煙に対する社会の意識が厳しくなり、ごく限られた場所でしか喫煙ができなくなってきた。だからおいらが煙にさらされる場面はほとんどなく、不意に呼吸困難になる心配はない。先日、大学時代のサークル仲間に10年近くぶりに出会った。大学時代はおいらの真横でタバコを吸っていた友人だったが、先日はおいらの病状を知っているのか、気を使っておいらの前では全く吸わなかった。それはとてもありがたい配慮である一方、煙まみれの大学時代がはるか遠い思い出であることを実感させて、煙はないのに目にしみるようであった。もしまたその友人に会う機会があれば、このジャズナンバーを一緒に演奏したいと思う。