ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命についてつづるよ。

不可思議を追い求める心

今回はリクエストを頂いた職業についてお話ししたい。なぜおいらが生物学者という職を選んだかについてである。2018年のあるアンケート調査によれば、小学生男子が将来なりたい職業は、野球やサッカーの選手を抜いて学者・博士が1位だそうだ。理由は定かではないが、近年日本人のノーベル賞受賞者が増加していることが挙げられる。そうした輝かしい成果や名誉を見れば、憧れるのも当然かもしれない。

 だが、現実にはノーベル賞受賞の道は極めて難しい。これまでにノーベル賞を受賞した日本人は23人(外国籍の日本出身者も含めると26名)。これと近い人数として、これまでにオリンピックで複数の金メダルを獲得した日本人は27名いるそうだ(夏季、冬季合わせて)。どちらが難しいかは単純に比較できるものではないが、どちらもとんでもなく難しいことは間違いない。何万人あるいは何十万人に一人だけが達成できる偉業である。さらにノーベル賞受賞は狙ってできるものではなく、努力や能力だけではどうにもならないところがある。だから、ノーベル賞受賞を夢としてみるのはいいけれど、真面目に目指すものではないのだ。

 研究者の世界は、もっと現実的な面で厳しい。大学や研究機関での終身雇用の研究職は、圧倒的に少なく極めて狭き門である。大学4年間、大学院修士課程2年間、大学院博士課程3年間を出て、晴れて博士になれても全く職がない。なんとか就ける職は、いわゆるポスドクと言われる期限付きの研究員のポストだけだ。おいらは40歳を過ぎてもポスドクを続けており、研究者としての能力も技術もろくになく、将来の目処が立たないために家族には負担をかけ続け、冷静に考えていくと絶望的な気持ちになったりもする。

 それでもおいらが研究職を続けるのは、生物の研究があまりに魅力的だからだ。生物のことを知れば知るほど、見れば見るほど、不可思議な存在に思えてくる。おいらの心臓くんもまさにそんな存在の一つなのである。生物とは、人類の理解の限界を超えた存在、言葉では永遠に表現できない存在かもしれないが、研究を通じてそのごくごく一部でも説明できた時、深い感動と喜びで満たされるのだ。だから生物のことも心臓のことも、これからも研究し続けたい。