ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

水がへばりつきやがるぜ

 ここ最近、なぜか尿の出る量が減ってしまい、どうにも打つ手がない。普段であれば、朝食後の薬一式を飲んだ後は午前中に大量に出た。特に平日、職場で紅茶を飲むとカフェインの効果もあいまってか、30分に一回くらいの頻度で、しかも一回あたりの量も多く、じゃんじゃかとでた。しかし最近は、紅茶でも烏龍茶でも緑茶でも、何を飲んでも出なくなった。ちなみに、仕事のない週末や休日は紅茶を飲まないため、普段でも尿の出は悪く、毎週平日に体重が減り休日に増えるという周期があった。今は、紅の茶を飲んでも休日と同じ程度しかでず、豚のように体重は増える一方だった。

 そんなわけで、9月に入ってから体重は3kg近く増えてしまい、だるさ、息苦しさ、頭痛といった症状が出てきている。腹部や頭部も明らかに膨れてきてしまった。夜中も息苦しくて寝付けない。そしてついに二週間前の診察では、血液検査で血中タンパクが激減し入院レベルに達していた。そのため、緊急に点滴でプレドニンと利尿剤を投与し、プレドニンの服用も1日6mgから8mgに増加することになった。それから一週間。先週の診察では、入院レベルの危機状況からはギリギリ脱することができたが、体重の増加や尿の出具合は相変わらず非常に悪いままである。

 先日はなんとか入院を避けられたものの、このままでは確実に入院である。この危機を脱するには、医者からも止められているあの手を使うしかない。それは、隠し持っている強力な利尿剤を飲むことである。おいらはもうすでに普段から限界量に近い利尿剤が処方されている。だから、医者からは勝手に利尿剤を増やして飲まないよう釘を刺されていた。実際には、どんなリスクがあるのかはよくわからない。おそらく、長期的にはより腎臓を痛め、利尿薬の効き目を悪くし、いつかどんな利尿薬も効かなくなってしまうのだろう。

 そして、禁断の果実を口にした。駄目押しに、ものすごく濃く抽出した紅茶も飲んだ。薬と紅茶を飲んだ効果はてき面だった。尿が、止まらぬ勢いで出続けた。そのため、午前中はトイレと職場のデスクを行き来するばかりでろくに仕事にならなかったが、みるみる体が軽くなりポッコリお腹がへこんでいくのが実感できた。そして、全身を覆っていた倦怠感や息苦しさも水と共に流れていくように薄れていった。しかし、こうした急激な水抜きは当然ながら代償も伴う。まさに熱中症と同様ナトリウムなどのミネラルも流れてしまい、今度は急にめまいがし始めたのだ。水が溜まっても水が抜けてもしんどくなり、実にじゃじゃ馬な体である。

 おいらの体は、日常的に水面すれすれの低空飛行であるため、ほんのわずかな乱れで墜落しそうになる。しかし、そんな体だからこそいざ無事大空に飛び立つことができれば、世界は本当に美しく見えるのだ。