ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命についてつづるよ。

移行期チェックリスト

先天性心疾患患者が大人になるとき、小児医療から成人医療への移行が必要になってくる。小児医療だけでは、成人特有の成人病などの病気や、フォンタン術後症候群などの後期合併症に必ずしも対応できないからだ。さらに患者自身の意識の移行も重要である。子供の頃は、病気のことは親や医者に任せっきりだが、大人になれば自分自身で責任を持って病気に関わらなくてはいけない。どんな治療を受け、いつ通院するかといったことは自分で決める必要がある。このように、小児医療から成人医療機関への移行と、病気の治療に対する責任を家族等から患者本人に移行すること、の2つの移行が、成人先天性心疾患患者が医療を受ける上で重要になる。

 そうした移行を支援するために、医療スタッフ(特に看護師さん)が用いる移行期チェックリストを検討した論文があったので、紹介したい。共著者の中には、おいらが大変お世話になった命の恩人とも言える先生方も含まれていて、治療を受けていた当時から移行の大切さを話されていたことを思い出した。

落合亮太ほか13名 (2017) 先天性心疾患患者に対する移行期チェックリストの開発, 日本成人先天性心疾患学会雑誌 6:16~26.

 論文では、国内に既存の4つの移行期チェックリストと海外の1例を参考に、新たな移行期チェックリスト案を作成した。作成にあたっては、それら既存リストの類似点を整理し、多数の専門家の意見を聞き取った上で、できるだけ少ない項目数で、より簡便に国内のどの医療機関でも使えるチェックリストを目指した。そうして、出来上がった案が以下15項目からなるチェックリストである。おいらの回答も加えて紹介しよう。全て、「はい」か「いいえ」で答えるものだが、詳しい回答も加えた。

 

1 今かかっている病院と医師の名前を言えますか。

  はい:ONセンター、S医師

2 あなたの主な病名を言えますか。

  はーい:両大血管右室起始症、フォンタン術後症候群、PLE

3   あなたが受けた主な手術の名前が言えますか。

  余裕:フォンタン術(APCフォンタン後、成人時にTCPC conversion)

4   現在飲んでいる薬の名前と主な効果を言えますか。

  Yes, I can: プレドニン、サムスカ、ワーファリン、スタチン、など20種類ほど。抗炎症、免疫抑制、利尿、こう血液凝固、コレステロール低下など。

5 現在飲んでいる薬について気をつけることを言えますか。

  だいたい:免疫抑制効果があるので、感染症にならないようにする。出血に注意する。脂肪を取り過ぎないようにするとかかな。

6 医師や看護師に自分で質問したり、質問に答えたりすることはできますか。

  いつも:うざいくらいにね。

7 できること、できないこと(体育・部活動等)について医師に確認していますか。

  まあまあ:するときもある。しないときもある。

8 身の回りの整理整頓や家事など、無理のない範囲で自分のできることは自分で行っていますか。

  当然:でも、配慮が足りず何かいつも欠けています。

9 感染性心内膜炎の予防方法を言えますか。

  あまり:虫歯予防は聞いたことがあるくらい。他は知らない。

10 受信したほうがいい症状と対処方法を言えますか。

  経験的に学んだ:胸が痛い、過剰にむくんだ、体重が増えた、すごくだるい

11 自分で外来受診を予約することはできますか

  あたぼーよ:でも、この間初めて予約した診察を受け忘れちゃった。

12 お酒・たばこを控える、十分に休息を取るなど、 生活する上で気をつけることを言えますか。

  ほぼ:酒タバコしてない。休み取りまくり。脂肪、塩分、食べ飲み過ぎを控える。

13 職業を選択する際の注意事項について主治医に確認していますか。

  してない:すでに仕事についてました。

14 異性とのつきあい方で注意することについて、ご家族や主治医と話したことがありますか。

  ありません:すでに結婚してました。

15 現在、利用している社会保障制度と、利用するうえで必要な手続きを言えますか。

  ようやく:障害者手帳特定疾患障害年金、重度医療費支給など。更新時期になると毎日のように役場通いです。

 

 このチェックリストは、これから成人になる中高生を対象に想定しており、おいらのようにすでに成人になりきった人が答えてもあまり意味はない。おいらのような成人は、全てはいと答えられて当然なのだ。このチェックリストは、自分の病気とそれに伴う医療を客観的に捉え、本人が主体的に関わっているかを問いているように感じる。移行期支援の役割としてはそれで十分であるが、もしおいらがもう一つ項目を付け加えるとしたら、以下の問いを加えたい。

「16 あなたは自分の心臓が好きですか。」

 答えは、はいでもいいえでもどちらでも良い。答えづらいかもしれない。はいであれば、病気をポジティブに捉えているとみなし、医療スタッフは患者に病状や治療法をより詳しく包み隠さず説明することができるだろう。いいえの場合は、受診の中断などのドロップアウトのリスクもあるため、周囲の支えや配慮が必要になるだろう。おいらも以前までは、病気から目をそらしたかった。あまり考えたくなかった。病気と向き合えるようになったのはここ数年のことである。それが移行の完了かはわからないが、そうなれるようになったのは家族やこの論文の著者の医師など、周囲の支えがあったからに他ならない。