ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

フォンタン

血の海を渡ると地獄

また、フォンタン再手術の話を再開しよう。 術前の説明では、手術時間は12時間と予定された。一番時間がかかるのは、心臓に到達する前に心臓と胸骨の癒着をはがすことである。過去に心臓手術を受けたことのある人は、心臓が周囲の組織と癒着していることがよ…

人工心肺、結構心配

手術の6日前に入院が始まった。入院するとすぐに、レントゲン、心電図、CT、採血、エコー、肺機能検査と、休む暇なく検査を受けた。さらに、その頃はPLEが再発していたため血中タンパクがかなり低く、点滴でアルブミンとグロブリンの補充も受けた。タンパク…

奇跡は終焉させない。

TCPC conversionを受けた人は日本にどのくらいいるのだろうか。はっきりした数はわからないが、おいらが子供の時に手術を受け、おそらく日本で最もフォンタン手術の実施数が多いTJ病院では、70例あるようだ。このほかに、やはり先天性心疾患の手術実績の多い…

避けられない手術

そろそろ、また過去の話をしよう。今から約2年ほど前のフォンタン再手術(TCPC conversion)のことだ。手術直後の状態は以前書いたが、その時の入院の全貌を、これから何回かに分けてお話ししたい。 おいらが再手術を受けるに至った経緯は、4年半前にさかの…

ひとりじゃない

目覚めると、視界ははっきりしなかった。見える物は全てがぼやけ、光のスジが何本も見えた。徐々に感覚が戻ってくるにつれ自分の置かれた状況がわかってきた。口には呼吸器が入り、しゃべることもできない。ベッドの上に寝ているのはわかるが、全身ほとんど…

フォンタン術後の長期死亡要因

昨年、フォンタン患者の長期予後に関する論文が新たに発表された。 Tarek Alsaied,Jouke P Bokma,Mark E Engel,Joey M Kuijpers,Samuel P Hanke,Liesl Zuhlke,Bin Zhang,Gruschen R Veldtman. 2017. Factors associated with long-term mortality after Font…

フォンタン術後の消化管出血と蛋白漏出性胃腸症

地獄入院の話を再開しよう。 地獄入院は、貧血がきっかけで始まった。後々わかってきたことは、消化管内からの出血で貧血が起こり、出血は蛋白漏出性胃腸症の延長線上に生じたものだった。以前にも書いたようにそのような症例は極めて少ないが、ほぼ唯一では…

水に左右される

最近は、2、3週に一度外来の診察を受けている。診察を受けにいくと、必ず血液検査をする。今気にしなければならない項目は、まず血中蛋白量を測る、総蛋白(TP),アルブミン,免疫グロブリン(IgG)である。フォンタン手術の合併症に蛋白漏出性胃腸症(PLE…

奇跡の終焉

おいらは、13歳のときフォンタン手術を受けた。フォンタン後の体の変化は劇的だった。顔や爪や唇の色は、紫色から血色の良いピンク色にかわり、ばち指はなくなり湾曲した爪はまっすぐに延びはじめた。走ることができ階段も息切れすることなく登れるようにな…

フォンタンの革命

フォンタン手術は、先天性心疾患に対する手術の中でも特に革命的であった。1971年にフランスのフォンタン医師が、二心室修復の不可能な先天性心疾患に対する根治手術としてこの手術法を考案した。それまでは、そうした心疾患を持つ子供たちになすすべき手は…