ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

モンスターパティエント

腹水の水抜き入院から、無事退院できた。連日ラシックスとソルダクトンを点滴で日に3回打ち続けた。約一週間で体重は3kg、腹囲は5cmほど減った。点滴による利尿剤はすごい効果である。点滴を打ち始めた最初の日は、おしっこが3L近くもでた。その後はでるものがなくなったのか2L、1.5Lと減少していった。

 

今回は短い入院で済んだものの、長引く入院はかえって健康を害する。多くの医学論文でも、入院期間が長いほど、短期・長期的な予後が悪いという結果が示されている。入院期間が長い患者はそもそも病状が良くないからということなのかもしれないが、おいらは健康な人でも入院すると病気になると思っている。耐性菌などの院内感染といった深刻なリスクもあるが、そもそもの入院生活がストレスになるのだ。ひたすら暇で、自由がなく、牢獄に入れられたような生活。体には点滴、心電図モニター、サチュレーションモニターなどのコードがつながり、身動きにも不自由する。

 

夜寝ているとこれらのコードが体に巻き付いたり背中に入ったりして、とても不快である。指にまいたサチュレーションモニターは、手を伸ばすたびに引っかかったりしてじゃまになる。まさに鎖に繋がれたような気分になる。だからおいらは、サチュレーションモニターは勝手に外してしまっていることが多い。病院によっては、24時間ずっとつけず検温のときだけ測るところもある。それで十分だと思う。勝手に外していても、大概の看護師さんや医師は見逃してくれる。ただ中には、ちゃんとつけていてくださいとしつこく注意してくる方もいる。つけていて何の意味があるんだ、患者のストレスも考えてくれ、マニュアル通りの指示しかできないのか、などと心の中で思いながらも、その場はとりあえず注意通り付け、いなくなったらすぐ外す。それを繰り返していると諦めてくれる場合もある。

 

入院患者にとって食事は、一日の中の最大の楽しみである。しかし、それも時と状況によって地獄になる。おいらは、腎臓肝臓心臓の機能が落ちているので、水分・塩分・脂肪分・タンパク質制限などがあり、一般食とは全然違うメニューがでる。塩分制限が厳しいときにはほとんど味のない食事だったが、薄味に慣れていたのでこれはさほど苦にならなかった。タンパク質制限を受けているときは、肉・魚類は4cm角ぐらいの大きさでちょこっとでただけで、後は野菜と多めのご飯だったりした。ほとんどおかず無しご飯の状態だった。その貴重な肉類も乾燥機にかけたかのようにぱっさぱさだった。水分もあまりとれないので、飲み込めず涙が出た。栄養士さんに何度もクレームを付け、下膳するときには「ぱさぱさ肉はどうかやめてくださいと書いたメモを置いたりした。そしたら、あんかけにしてくれるなど改善してくれたが、数日経つとぱさぱさが復活した。

 

今回の入院が短かったのも、早く退院させてくれとしつこくお願いしたためである。医師としては、点滴をとめた後数日飲み薬の利尿剤だけでおしっこがちゃんとでるか確かめたかっただろう。でも、退院後すぐに外来にくるからなどいろいろ理由を付けて、退院をせかした。また、こっちで勝手に退院日を設定して、この日までに退院させてくれと繰り返しお願いした。医師は途中から苦笑いのような引きつった顔になっていったが、結局望み通り退院させてくれた。

 

こんな感じで、おいらは超クレーマーな患者である。モンスターぺアレントならぬモンスターパティエントである。きっとうっとうしい厄介な患者と思われているだろう。でもそれも開き直るしかない。長引く入院はかえって体によくない、その思いを一心に早期退院とよりストレスのない入院生活を目指すのだ。患者の多くはこうしたクレームを付けることにためらいがあると思うが、ちゃんとした理由があれば言っていいと思う。その方が、ただいいなりになっているより、自分の病気に積極的に向き合っている姿勢を示すことにもなり、自分自身も気持ちが奮い立つ。病気は病院に任せっぱなしではなく、まず自分が良くなろうという気持ちが何より大切なのだ。