ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

ハイゼントラは依然と続く

このブログにアクセスしてくれる方は、ハイゼントラで検索してきた方が多いらしい。というわけで、今日はおいらのハイゼントラ体験の話をしたい。

 おいらは、昨年のフォンタン転換手術の後からハイゼントラを始めた。入院中に何度か練習をした後、退院後も自宅点滴で続けている。最初は週1回10mLだったが、消化管出血の地獄入院のときから、血中免疫グロブリン(IgG)やアルブミン量がなかなか改善しないため、週1回20mLに増量された。地獄入院の退院後は順調に回復し、10月から2週に一回20mLに減量された。ハイゼントラ自体はIgGなのだが、なぜかハイゼントラを点滴するとアルブミン量も共に改善する傾向がある。ハイゼントラは遅効性で点滴後数日間じわじわと効いてくるという利点がある。血管内に直接アルブミン免疫グロブリンを点滴補充する方法は、その瞬間だけの効果なので入れたその日はいいが、すぐにまた下がってしまう。ハイゼントラを始めたことにより、これまではたびたび入院して補充を受けていたのが補充が必要なくなったという方が結構いるらしい。実際おいらもハイゼントラを始めた結果、血中蛋白量がかなり安定するようになった。

 ハイゼントラの点滴はいつもお腹に刺している。他にも二の腕、太もも、背中に刺してもいいそうだが、太ももは痛そうだし、背中は自分では届かないのでやったことがない。二の腕は一度だけやった。二の腕は刺すときは痛くないけど、肉が薄いためか20mLもいれるとパンパンになり後で痛い。それに腕なので動かしにくいという欠点がある。というわけで、結局いつもお腹に左右交互に刺している。

 ハイゼントラの注射針は27G(0.40mm)で細いのだが、刺すときは結構痛い。点滴というと一般的には、柔らかいチューブを血管の中にいれる留置針(サーフローと呼ばれる)をイメージするが、ハイゼントラの場合は短時間だけなので、金属の針を刺したままにする。また、血管には刺さず、皮下に刺さるようにする。むしろ、血管に刺さって点滴液がすぐに血液内に流れてはいけないらしく、針を刺したときには、点滴を開始する前に血液が逆流してこないか確認する。

 ハイゼントラの針は痛いという意見が結構あるようで、メーカーが痛くない針を改良した。それ以前は針の角度が約30度に曲がって、テープまでついたタイプだった。新しく改良された針は翼状針で、以前のものよりわずかに針が短い。しかしテープがあらかじめついていないので、自分でテープで固定する必要があり、さらに角度をつけるためガーゼやアルコール綿をはさんだりして、結構めんどうである。その作業に手間取っているうちに針が抜けてしまったり、針がぐりぐりと動いた入りしてかえって痛い。そしてそもそも痛くないないよう改良したというが、刺すときの痛みは変わらなかった。という訳で、おいらは以前のタイプを今も使い続けている。

 針を刺す前に、ハイゼントラの溶液を、ビンから注射器のシリンジに移す必要がある。移すときはシリンジにプラスチックの針を取り付けて、ビンのふたのゴムの部分に刺し、吸い上げる。ハイゼントラ溶液は粘度が高く泡立ちやすいため、泡立てないよういれるのが難しい。溶液を吸い上げるときに一旦シリンジ内の空気をビンの中に押し込むのだが、このときに針の先が液の中に沈んでいると泡立ってしまう。そのため、空気を押し込むときには、針を液の外に出すのがコツである。空気を押し込んでは溶液を吸い込むというのを何度か繰り返すと溶液が一通りシリンジに移る。最後の方は特に泡立ちやすいので慎重に行う。それから、針をビンのゴムから抜き取るときには、ビンの中が空っぽになっていないと、液が飛び出す危険があるので注意する。おいらは一度失敗し、べとべとのハイゼントラの液がそこら中に飛び散ったことがある。

 シリンジに溶液が移ったらプラスティックの針を取り外し、シリンジ内の空気をできるだけ押し出す。そして、50cmほどのチューブがついた点滴針をシリンジに取り付け、針の先の少し手前まで液を流し入れる。その後針を体に刺して固定してから、最後にシリンジを輸液ポンプにセットし、輸液速度を設定すれば準備完了である。いざ開始ボタンを押して液を流していく。

 輸液速度は人によって違うようだが、おいらの場合は20mL/hで入れるよう指示されている。しかし実際はもっと早く終わってほしいので、22mL/hくらいでやってしまう。自宅点滴なら医師も看護師さんもいないので、こういうときにズルできる。しかし、このズルも効かなくなった。ズルして速度を上げるとすぐにつまって警告音がなりとまってしまうのだ。結局20mL/hでやるほうがすんなり入って早かった。

 針を刺すときも痛いが、液を入れているときもピリピリしたりして痛いときがある。刺す前に、保冷剤で肌をじっくり冷やしておくと感覚がなくなり痛くなくなるが、それでも液を入れているときのピリピリは残る。針は細いし普通のサーフローの点滴よりはるかに痛くないはずだが、自分で刺すという恐怖心も相まって、かなり痛く感じてしまう。いざさすときは何度か深呼吸し、呼吸を止めて一思いに刺す。ここで恐怖心に負けて迷いがでるとなかなか針が皮膚に刺さらず、さらに痛い思いをする。一気にぷっと刺してしまうのが良い。全ての準備を終え点滴を開始してしまえば、しばらくまったりと横になって終わるの待てばいい。液がある程度入ると、皮膚がもっこりと膨らんでたんこぶができたようになる。それがまた少し痛いけど2、3日すれば引いてくる。

 ずいぶんと細かくほとんどの人が興味ないことをダラダラと書いてしまったけど、こんな感じでハイゼントラは痛いし面倒くさいのでできればなくなってほしい。糖尿病のインシュリン注射や人工透析などと比べれば全然頻度も少ないので、この程度で憂鬱になってはいけないのだろう。しかし、ハイゼントラの点滴をしながら横になっていると、まるで入院でもしているような非日常性を感じてしまい、なんだか少し憂鬱な気分になってしまうのだった。