ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

デスゾーン

 世界には、標高8000mを超える山が14ある。8000m以上の環境は、酸素濃度が地上の約3分の1となり、これまで多くの登山家が死亡してきたため、「デスゾーン」と呼ばれている。その死亡率は、多くの山で5%以上になっているそうである。デスゾーンを攻略し、意識が朦朧とする中、山頂に立った登山家には、神々の姿が見えすらする。

 新年に入り、おいらはステロイド剤(プレドニン)の服用が8mg/日に減量された。ここ数年8mg以下に減量すると、蛋白漏出性胃腸症が再発し、入院して再び40mgほどに増量というのを繰り返してきた。昨年の地獄入院もまた、8mgへ減量した後に起きた。だから、8mgはおいらにとってデスゾーン突入なのである。さらに今回は、利尿剤とハイゼントラも合わせて減量した。つまり、以前より水分が溜りやすくタンパク補給が少ない状態での突入である。まるで、無酸素で8000m峰登頂を目指すようなものである。

 今のところ、まだ体調は良い。利尿剤(ニュートライド)をなくし、多少おしっこの量は減ったもののそれなりにでている。浮腫んだ様子も感じられない。しかし、一方でステロイド離脱症状に当たるような症状もでてきている。倦怠感、関節痛、気力の低下、寒気、異常な眠気、胃腸のもたれ。だから、決して油断してはいけない。

 寒い冬の時期でのデスゾーン突入は、特に危険が大きい。ただでさえ、寒さで心臓の負担が大きく体調が悪くなりやすい。これまでも冬期に体調を崩し入院することが多かった。だから、8mgへの減量は春になるまで待った方がよいとも考えた。実際、医師はもっと早くから減量したそうだったが、とりあえず年明けまでは様子が見たいということで先延ばししてもらっていた。しかし年明け最初の診察で、医師はもういい加減減らしたそうだったので、挑戦してみることにしたのだ。

 ちなみに今年は、おいらは本厄の年である。そんな年にデスゾーン突入はかなり薄気味悪いが、厄年は悪いことばかりではなくいいことも大きく起こるぶれの大きい年なのである。もしかすると、ここ数年失敗し続けたデスゾーンをついに攻略し、そのまま良い体調を維持できるかもしれない。ここ半年の回復ぶりからは、それを十分期待できる。離脱症状で意識が朦朧とする中、デスゾーンを突破し、おいらも神々の姿を拝みたい。