ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

リゾート気分よりぞーっとする気分

南の島に移住してちょうど1ヶ月が過ぎた。とても長い1ヶ月だった。毎日の仕事に疲れ、早速5月病のような症状になり、しばらく憂鬱な気分で過ごした。ようやく最近慣れてきたところである。妻も慣れない土地で知り合いもおらず、精神的に辛そうだった。子供は学校で友達はできたものの、まだ放課後は誰かと遊ぶわけでもなく、なんだか寂しそうだった。明日からの連休期間は、南の島のリゾート気分を満喫して家族で発散しようかな。

 そのための軍資金は手に入った。昨年度まで失業手当を受けていたおいらは、4月に就職したことで、再就職手当というのをかなりいただくことができた。それに加えて、障害基礎年金が今も支給されている。働き始めたのに支給を受けていていいのかという気もするが、支給条件に働いているかどうかは関係ないようだ。そんなわけで、認定を受けている期間のうちは支給され、次の更新の際(おそらく1年後)に障害状態の確認が審査され、改善していれば支給停止になるそうだ。引越しで結構使ってしまったものの、それを差し引いてもプラスになるので、これで連休もひもじい思いをせず過ごせそうである。

 南の島に来て、遊ぶお金もあり、何て贅沢な生活なんだと思われるだろう。でも本当はこれらの資金にあまり手をつけてはいけないのだ。今はたまたま元気になって働けているが、いつまた入院してしまうかわからない。そうした時のための蓄えとして取っておかなくてはいけない。元気になるとつい以前のことを忘れてしまうが、一年前は働くなんて夢のまた夢、一生寝たきりになりそうだったのだ。その状態になるリスクは常にある。交通事故にあう確率よりはるかに高いだろう。それに、突然入院とはならなくても、徐々に弱っていくことは確実である。そう長い期間は働けないだろう。

 あんまり先のことを考えて不安になってもしょうがないのだけれど、この問題はおいらの家族にとって、常に重くのしかかっていることだ。だから、いつも安心できず、心のどこかでトゲのように刺さって気にかかっている。できればそんな重圧から解放されたい。こんなことを考えるとリゾート気分で優雅に過ごすなんて、心から楽しめなくなってしまうのである。