ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

総痛み量

今回の心筋梗塞の入院では、当然ながら様々な痛い出来事が続いた。入院中は、痛みのレベルを1から10で聞かれることが度々あり、10は涙が出るほどの痛みらしい。最初にあった胸や腕の痛みは大したことはないので痛みレベル2くらいだった。点滴ルートの注射や血液検査の注射は、入院期間中15回ぐらいあったが、一瞬なので各回痛みレベル2か3だった。まず最初の難関は導尿カテーテルの挿入で、これは過去の経験と同様超痛くてレベル7くらいだった。

 痛みは他にも続いた。CTの造影剤を入れると体が熱くなるが、痛みというほどではないので、痛みレベル1だ。カテーテルでは右の足の付け根から入れることになった。局部麻酔の注射は、何か虫にでも鋭く噛みつかれているような強い痛みで、レベル8だった。でも過去に受けたカテーテルに比べると割と楽な方だった。これで、もうカテーテルの痛みはほぼ終わったなと安堵し、珍しくカテーテル中にウトウトと安らかな気分になれた。しかし、痛い出来事はこの後も次々と襲ってきた。

 カテーテル後に感染が疑われ、血液培養試験が行われた。その際足から採血したため、足首や脛のあたりの骨に隣接した血管に刺されズキッと鋭く痛かった。しかも失敗し合計3回刺された。痛みレベルは6だった。カテーテルのシースは、止血できない危険があり検査後すぐに抜かなかったため、翌日再び局部麻酔を打たれて抜いた。その時の痛みレベルは7。カテーテルは毎回そうだが、シース穿刺部をしっかり抑えて止血するため、分厚い粘着テープを太ももから腰にかけ十字にがっちりと貼り付けられる。そのテープを剥がすときは、リムーバを使うものの、肉がちぎれるのではないかと思うほど痛かった。おそらく長年のステロイドの影響だと思うが、おいらの皮膚はとても薄く弱くなっているために、強烈な痛さだった。痛みレベル10を振り切れ、12くらいありそうだった。ぎゃあぎゃあと唸ってしまった。そのあと、導尿カテーテルを抜かれたが、それは大したことがなく痛みレベル4。そして、最初のカテーテルから2週間後、治療した部位の確認のため再びカテーテル検査を行った。その痛みレベルは、麻酔、テープ等全体で25ほどだった。入院中は他にも胸痛や神経痛が起きたが、それらの痛みレベルは大したことはない。こうした痛みレベルを合計すると100を超えるほどとなった。

 病院では、いつの頃からか痛みレベルを数値的に表現するのが流行り出したが、それならば入院期間中のトータルの痛みレベルを把握し、合計値がある上限値以下にすることも今後の医療のあり方として検討してもらいたい。総被ばく線量の上限値があるようにだ。痛みレベルの場合は、例えば同じ100でも、レベル1を100回とレベル10を10回とでは後者の方がはるかに苦痛だろう。そういう意味では上限を設ける意味はあまりないかもしれないが、患者がどれだけ多くの痛みを経験しているかを理解してもらうためにも、総痛み量の把握していただきたい。