ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命についてつづるよ。

単一の病院における心外導管型フォンタン術患者500人の予後

久しぶりに論文紹介をしよう。それほど目新しい研究内容ではないが、日本国内の病院がこれほど多数のフォンタン患者を追跡調査した研究成果は珍しい。

 

Nakano, T et al. 2015. Results of extracardiac conduit total cavopulmonary connection in 500 patients. European Journal of Cardio-Thoracic Surgery 48: 825–832

福岡市立こども病院で、1994年3月から2014年3月の間に、500人の患者(平均年齢3.4歳)が心外導管型フォンタン術を受けた。この論文では、術後短期から中期的な、死亡率、合併症等の発症率、血行動態、心肺運動能力および肝検査を追跡調査した。

結果:500人中死亡19名、生存率は10年で96.2%、15年で92.8%。徐脈性不整脈および頻脈性不整脈はそれぞれ19人および13人発生した。8人にタンパク漏出性胃腸症、5人に血栓塞栓症、6人に出血性合併症、1人に肝硬変が見られた。心肺運動負荷試験により、最高酸素摂取量(peak VO2)は健常者の84.9%で、年齢とともに低下した。カテーテル検査の結果では、中心静脈圧9.9mmHg(正常8mmHg以下)、心室拡張末期圧5.2mmHg(正常8mmHg以下)、心係数3.4(正常2.6~4.2L/min/m2)、血中酸素飽和度94.2%を示した。肝臓超音波検査では、43%の患者に肝臓内に肝繊維化の兆候である斑点が見られた。以上の結果から、全体として心外導管型フォンタン術患者の死亡率や合併症発生率は低く良い状態が保たれていると言える。

 

ここからは、おいらの解釈である。心外導管型フォンタン術は、現在最も主流なフォンタン術であり、おいらが子供の頃受けたAPCフォンタン術は全く行われなくなり、その後に改良された側方トンネル型フォンタン術も数少なくなった。海外の多くの先行研究によく見られるように、この論文でもそうした過去の遺産的フォンタン術と比較して心外導管型フォンタン術の優位性を主張している。確かに心外導管型フォンタン術は心臓の負担が少なく、長期的予後も良いだろう。しかし、現代に生きる心疾患の子供たちにとって心外導管型フォンタン術が基本であり、過去の術式と比較して良いと言われてもなんのありがたみもない。心外導管型フォンタン術によって、成人まで生きることは容易になったが、合併症の発生リスクは今だに高い(この研究でも、15歳までに18%の患者が何らかの合併症を発症している)。それでは、患者本人も家族も安心できないのである。

 論文では、健康な状態をより長期的に維持する手段についても議論されている。カテーテル検査を含めた定期的な経過観察を続けること、抗凝固薬、利尿薬、肺血管拡張薬等の薬物治療を生涯にわたって慎重に行うこと、運動をして筋肉や骨を鍛えること、食事等の生活習慣も良いものにすること、だそうだ。ちなみにおいらはこれら全てを怠り、30代後半にフォンタン術後症候群が発症した。つまり、この論文の模範的な反面教師となったわけである。これからの子供たちには、どうかフォンタン術後も合併症がなく生きられる道が開けてほしい。