ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

TCPCフォンタンにおける遠隔期障害と死亡の関係

前回と似た別の論文を見つけたので紹介したい。

Kotani, Y et al. 2018. Fontan failure and death in contemporary fontan circulation: analysis from the last two decades. The Annals of thoracic surgery 105: 1240-1247.

 

トロント小児病院で、1985年から2012年にかけてTCPCフォンタン術を受けた500人の患者(心外326, 側方トンネル174)の死亡率とフォンタン障害・合併症の発生率の関係を分析した。 結果:早期死亡23名(4.6%)、後期死亡17名(3.4%)。死亡患者の多くは2000年以前に手術を受けた患者であった。特に早期死亡に関しては、2000年以降一例も見られていない。早期死亡の23人は、心室機能障害14、肺血管機能障害4、血栓塞栓症2、不整脈4といったフォンタン障害が原因だった。後期死亡は、これらの障害に加え、蛋白漏出性胃腸症(1名)、鋳型気管支炎(1名)、突然死(4名)などがある。 一方、生存者の48%もフォンタン障害・合併症を発症していたが、そうしたフォンタン障害・合併症の回避年数(発症しないでいられる年数)は死亡患者と比べはるかに長かった。

結論:フォンタン術後の早期死亡は克服された。しかし、後期死亡の発生率と原因は時代を経ても変わっていない。すなわち、フォンタン障害・合併症を予防し治療する技術が確立しなければ、後期死亡率は下がらない。 おいらの解釈 先日紹介した福岡市立こども病院の事例よりも、さらに深刻な結果になっていた。フォンタン術を受けた人の半数近くがのちに障害や合併症を発症しており、それらの障害や合併症はその後の生存率に大きく影響を与えた。フォンタン術後症候群が小児慢性特定疾患に登録されたように、フォンタン術後の予後不良はかなり深刻な問題として認識され始めている。もはやフォンタン=最高の手術とは言えなくなった。

 フォンタンに対して悲観的な話が続いてしまい申し訳ない。おいらの世代は、大人になってフォンタン術後症候群になるなんて全く想像すらしなかったが、現在ならフォンタン術後の情報が蓄積している。それは将来を予測し、先手を打って対策を立てられるということでもある。だから、これからフォンタンを受ける予定の方、あるいはすでに受けた子供達は、どうか勇気と希望を持ってフォンタンに挑んで欲しい。