ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

Perfume体操

少し時間を遡って、3年前の地獄入院の時の小話をしよう。地獄入院の時のおいらは、腰痛と腰椎圧迫骨折のダブルパンチによって、一時期寝たきりになってしまっていた。日に日に筋力を失い、痩せ細っていく体。当時おいらのリハビリを世話してくれたスパルタの理学療法士さんには、筋力を取り戻すには寝たきりの期間の3倍かかると脅され、ベッド上でできる体操を色々と指導された。スパルタ先生は一日でもおいらが体操を怠けるとすぐ見破るので、おいらは必死になって自主体操を続けた。

 寝たきりでかつ腰椎圧迫骨折の時にできる体操は限られている。腰回りを動かすことはできないので、仰向けに寝たまま腕と脚だけを動かす動作になる。腕は、バーベル上げと同じ要領で、手元にある本などの重いものを頭上に持ち上げたり下げたりをひたすら繰り返す。一番筋力が落ちた時は、軽い文庫本一冊を持ち上げるのさえ苦労した。少しずつ文庫本の冊数を増やしたり、ノートパソコンを持ち上げたりして鍛えた。脚の方は色々な動作があったが、例えば単純に片脚ずつ上に持ち上げたり、横に動かしたり、つま先を下に伸ばしたり上に伸ばしたり、膝を立ててふくらはぎを持ち上げたり下げたり、といった動作を順番に繰り返すのである。

 とはいえこれらの動作は単純過ぎてすぐ飽きてきてしまう。それぞれの動作を10回ずつやるというルールを作っても、途中で何回かわからなくなったり、惰性な動きになってきてしまう。もっと楽しく長い時間続けられる方法がないか。そう考えて思いついたのが、Perfumeの音楽に合わせて体操することであった。おいらは入院した時はいつもポータブル音楽プレーヤーを持っていった。超小型なのに何千曲も保存できるので、おいらは好きなアーティストのアルバムを片っ端から取り込んでいた。その中にPerfumeがあった。高校の頃からテクノサウンドが好きで電気グルーブなどを聴いていたこともあり、Perfumeは密かにかなりお気に入りだった。

 Perfumeの軽快なリズムに合わせながら腕や脚の動作を繰り返すと、超楽しい。まるでクラブに行ったかのように、おいらはノリノリで手足をバタバタ動かし続けた。どの曲もテンポが早いので、一曲休まずに動かし続けるとかなりしんどい。でもそれがいい負荷となり、おいらの筋力は徐々に回復していった。

 客観的に見れば、40のおっさんがベッド上でPerfumeを聴きながらバタバタ動いている姿は、ヲタ芸を見るより不気味である。しかし、当の本人は4人目のPerfumeになったつもりで踊りまくった。一応脚の細さだけはPerfume並みに細かったかもしれない。ただあまり張り切りすぎると、胸につけた心電図計が不整脈と間違えて感知してナースステーションでアラームがなってしまい、看護師さんが駆けつける羽目になる。その度においらは、外に聞こえないのに慌ててPerfumeを止めていた。なぜだか、Perfumeを聴いていることを知られるのは、若い女性の看護師さんの前で全裸になるよりよほど恥ずかしかった。それは多分、体操のために聴く以上に普通にアイドルとしてときめいていたからだろう。

 一番可愛いのはノッチだけど、通はかしゆか推しだよな。あーちゃんはゴリラって酷い言われ方しているけど、歌は一番うまいよね。体操で一番乗れるのはMy Colorかな。ワンルームディスコもベタにいいね。おいらもHave a strollの歌詞のように乙女のランチ食べて眠たくなってみたいな。ね、恥ずかしいでしょ。