ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

中性存在

今回は、成人男性患者の恥ずかしい悩みについて少し赤裸々にお話ししたい。

 入院すると、身の周りの世話を看護師さんにしてもらう機会が多くなる。特に、手術後など寝たきりの状態になっているときは、衣服や下着の着替え、トイレ介助、体拭き、など全てをさらけ出して世話してもらわなければならない。最近は男性の看護師さんも増えたものの、日によっては女性の看護師さんが担当になることもある。おいらもこれまでに何度も女性の看護師さんに裸を晒し、時に身体中を洗ってもらったりもした。もしそんな時、おいらが男性であることを意識してしまったら、恥ずかしさで耐えられないだろう。いや、恥ずかしいだけじゃ済まないかもしれない。思わず男性の本能が出てしまい、とんでもなく気まずい状況になる可能性もありうる。これは絶対に避けなければならないし、何より看護師さんにあまりに失礼である。

 そんな状況にならないためにも、おいらが厳守している入院の心得がある。それは、自分の性別を徹底して中性にすることである。あるいは、別の言い方をすれば「患者」という性のない存在になりきることだ。特においらの場合、先天性疾患の治療ができるこども病院での入院が多かったため、性を消すのは必須とも言える心得であった。

 成人病棟に入院した場合は、看護師さんが成人患者を見慣れているため、おいらがどんな醜態を晒していようと淡々と作業をこなしていってくれる。患者と看護師さんの間にいい意味で距離感があり、おいらも患者に徹しやすい。しかし、こども病院の看護師さんは、そもそも若い女性の看護師さんが多い上、普段子供の患者と接しているためすごく親しみやすく距離感が近い。どこか保育園や幼稚園の先生のような雰囲気があり、母性本能を感じたりもする。それは、色気とは違うものの、女性であることを意識せずにはおれないのだ。そんなとき、もしおいらがちらとでも男の雰囲気を出してしまったら、その場は途端に男女の関係になってしまう。そうなるともう恥ずかしさの底なし沼にはまってしまい、ちょっと肌を触れられるだけでドキドキしてしまうのだ。

 もしドキドキしたら、入院中は携帯心電図計を常につけているため、ばれてしまう可能性が高い。女性看護師さんに接するとドキドキするなんて知れたら、病院を追い出されかねない事態である。おいらもそんな変態にはなりたくない。だからこそ、自分が男性であることを一切消し去り、中性になりきる必要がある。前回の記事で、Perfumeを聴いているのを知られるのが恥ずかしいと書いたのもそれと関係がある。女性アイドルにときめく姿はまさに男そのものであり、そんな男の一面は絶対に見せてはいけないのである。

 有毒ガスを出さず手肌に優しい中性洗剤のように、有毒な下心を出さず人に優しい中性的な存在になりたい。こんなことを入院の心得として必死に守ろうとしている時点で、おいらはすでに変態なのかな。