ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

フォンタン循環は、早期に重度の肝臓障害を引き起こす。

今回は、フォンタン循環の深刻な合併症の一つである肝障害について研究した論文を紹介したい。

 

Agnoletti, G., Ferraro, G., Bordese, R., et al. (2016). Fontan circulation causes early, severe liver damage. Should we offer patients a tailored strategy? International Journal of Cardiology, 209, 60–65.

 

背景:フォンタン循環が正常に機能するためには、肺動脈圧から肺静脈圧の血圧差を作るために、体静脈圧が正常値を超えて上昇する必要がある。しかしその代償として、フォンタン患者は慢性的静脈うっ血状態に陥り、肝臓は特にそれに強い影響を受けてしまう。そのため、フォンタン患者ではうっ血性肝障害、肝線維症、肝硬変、肝癌といった肝障害が多く見られるが、そうした肝臓の変化はどのタイミングで起きているかは明らかでない。

方法:64人のFontan患者(9−18歳で平均14歳。2年以内にTCPCフォンタンを受けた患者は除く)に、1〜15年の間隔で様々な検査(心エコー、腹部超音波、肝臓エラストグラフィ、心臓カテーテル法、食道胃十二指腸鏡検査、肝機能検査)を行い、MELD-XIスコアを計算した。

結果:Fontan後の最初の5年間は心拍出量は安定していたが、その後大幅に減少した。NYHAクラスは、術後に大幅に増加した。 NYHAクラスII/IIIの患者は肝静脈圧が有意に高かった一方、心室機能と肺血管抵抗は正常だった。肺動脈圧の高い患者(≥15mm Hg)ほど肝静脈圧は高く、側副血行路、食道静脈瘤、脾腫の発症率が高かった。肝硬度はほとんどの患者で最初の5年間に急速に上昇しており、その後安定した。 MELD-XIスコアは、フォンタン術後時間経過ともに増加した。肝硬変の全発生率は22%であった。

結論:以上の結果は、フォンタン循環では早期に、進行性かつ不可逆的な肝障害を引き起こすことを示している。したがって、フォンタン術直後から肝障害の予防的治療を講じる必要がある。その治療方法としては、肺血管抵抗を低下させる治療や門脈圧亢進症を管理する治療、肝硬変になった患者に対しては心臓と肝臓の併用移植を行う、あるいはフォンタン循環を放棄し中程度のチアノーゼに耐える方法、などが考えられる。

 

おいらの感想

おいらの肝臓も、肝繊維化と肝硬変化の兆候があるにも関わらず、これまであまり深刻に受け止めてこなかった。それは、定期的に受けている腹部超音波検査では症状が安定していたためもあるが、目下より深刻な不整脈やPLEの方に意識が集中してしまっていた。また、子供の頃の輸血からC型肝炎にかかっていたため、肝障害は肝炎が原因ではないかと思い、フォンタン循環との因果関係は疑問に感じていた。

 しかし、この論文を読み、フォンタン循環と強い関係があることを思い知らされた。特にショックなのは、論文の結論で述べているように、フォンタン術後5年以内という極めて早期に肝障害が引き起こされる点である。おいらも、肝障害の治療を真剣に考える必要があるようだ。とはいえ、論文で提案されていた幾つかの治療法は、できればやりたくはない。それらの治療法は、フォンタン循環そのものを否定しているようで、本末転倒に感じるのだ。フォンタン術は、一心室しか使えない心疾患患者にとって、希望の光なのである。おいらもフォンタン術を受けたからこそ今日まで生きてこられた。だから、フォンタン循環を維持しつつ肝障害を治療できる方法を願っている。