ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

フォンタン術後のタンパク漏出性胃腸症患者における臨床成果と生存率の改善

今年最後の記事は、少し明るい報告の論文を紹介して終わりたい。

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John, AS. et al. (2014). Clinical outcomes and improved survival in patients with protein-losing enteropathy after the Fontan operation. Journal of the American college of cardiology 64: 54–62.

背景:Fontan手術後のタンパク漏出性胃腸症(PLE)の患者は、発症後5年の死亡率が50%と報告されてきた。しかし、現在では治療の進歩により生存率が改善した可能性がある。そこで本研究は、フォンタン術後PLE患者の現在の状況を改めて調査した。

方法:1992年から2010年でのフォンタン術後PLE患者42人(男性55%)の臨床結果を分析した。

結果:PLE診断時の平均年齢は18.9±11歳。フォンタン手術は10.1±10.8歳で行われ、フォンタン手術からPLE診断までの平均期間は8.4±14.2年である。患者の生存率は5年88%、10年72%であった。死亡した患者は生存者と比べて、フォンタン圧(肺動脈圧と思われる)が高く(平均値>15mmHg)、心機能が低下し(駆出率<55%)、NYHA心臓機能クラスが2以上であった。また、死亡患者は、肺血管抵抗が高く、心係数は低く(1.6±0.4l/min/m2)、混合静脈飽和度も低下(53%)していた。つまり、高い静脈圧と高い肺血管抵抗の両方が、フォンタン経路への受動的静脈還流を妨げ、心拍出量(心係数)が減少する原因となった。

 PLEの生存者でより頻繁に使用される治療法には、スピロノラクトン(浮腫改善)、オクトレオチド(腸管治療)、シルデナフィル(肺高血圧改善)、開窓形成(フォンタン圧低下)、フォンタン狭窄の軽減(心拍出量改善)などがある。また、不整脈治療、肝機能障害への注意、高タンパク低脂肪食、貧血、甲状腺機能障害、睡眠時無呼吸等の心外症状への治療なども重要である。

結論:PLEの治療は複合的であり、依然として困難であるが、治療の進歩により生存率は著しく向上した。PLEのメカニズムやPLEの効果的治療戦略を解明するためには、さらなる研究が必要である。

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 おいらは6年前にPLEが診断された。その時もこの研究の背景にあるように、5年死亡率50%、10年死亡率90%だと医者から告げられていた。3年前にはPLEが悪化し消化管出血を起こし、かなり危機的状況にまで落ちいった。その時は、食事も取れず、胃腸は常に痛くて気持ち悪く死を覚悟した。しかし、この論文に書かれているような様々な治療を行って奇跡的に回復し、気づけば5年を過ぎていた。そして現在は、多少の波はあるものの、危機的な状況になるリスクは少ない。このまま状態が安定していれば、PLE発症後10年生存も難しくはないだろう。本当にありがたいことである。

 でも何がありがたいって、5年以上生きられたおかげでこの冬公開されたスターウォーズ完結編を観られたことである。もうおいらはPLEを恐れないのだ。恐れは暗黒面に通じている。