ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

フォンタン循環における肝臓および腎臓の末端器官障害

新年早々、再びフォンタン術後の肝機能障害についての研究を紹介する。この論文では腎機能障害についても詳しく分析している。

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Wilson, TG. et al. (2018) Hepatic and renal end-organ damage in the Fontan circulation: A report from the Australian and New Zealand Fontan Registry. International Journal of Cardiology 273: 100–107.

背景:フォンタン術患者では、肝機能および腎機能の障害がしばしば合併症として生じるが、その発症率や要因は十分に検証されていない。

方法:フォンタン患者152人(平均19.8±9才)が、腹部超音波、FibroScan(肝硬化検査)、FibroTest(肝線維化血清検査)、mGFR値(糸球体濾過率)および尿アルブミン/クレアチニン比検査のいずれかまたは全てを受け、その検査結果を詳細に分析した。

結果:被験者のフォンタン術後経過年数は14.1±7.6年。肝線維症の兆候は、超音波検査では61%の患者で見られたが、肝癌と診断された患者いなかった。 肝硬化検査では、10以上(117/133人、88%)、15以上(75人、56%)、20以上(41人、31%)であった(5以下は正常、17以上肝硬変)。 118人中54人の患者(46%)がFibroTestスコアが0.49以上(F2線維症以上)であった。

 腎機能障害は、46/131人(35%)が軽​​度(mGFR 60–89 ml/min/1.73m2)であり、3人(2%)で中程度(mGFR 30–59)。微量アルブミン尿は、52/139人(37%)で検出された。これらの肝機能障害や腎機能障害の兆候はフォンタン術からの経過時間とともに増加した。

結論:フォンタン術後20年以内に、多くの患者で肝臓および腎臓に機能障害が見られている。したがって、フォンタン術後は肝機能および腎機能の変化を注視して観察する必要がある。

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 なかなか気が重くなる内容であった。さらに論文の中では、「現在、フォンタン循環における末端器官の障害を防ぐための有効な医学的治療法はない。」とまで言ってしまっていた。そんなこと言わずに、なんとかしてくれと言いたいところだが、冷静に客観的視点で解釈すれば必ずしも悲観的になる必要はないかもしれない。まず、論文の考察でも述べられていたが、被験者数が少ない上、分析データがある一回の検査を対象にしている。これでは、より正確な結果を得るには不十分であろう。一方、この論文で行われた検査はいずれも非侵襲的な検査であり、気軽に受けることができるものばかりである。だから、普段の診察の際に、これらの検査をたまに行ってもらうのが良い。もしそれでなんらかの兆候が検出されたならば、症状が悪化しないような治療や生活習慣にすることでかなり対処できるはずだ。

 おいらもまた肝障害と腎障害が多少なりともあるが、リーバクトという肝庇護の薬を飲んだり、食生活を工夫するなどで症状の悪化を今のところ抑えられている。肝心・肝腎という言葉があるように、肝臓、腎臓、心臓は人体にとって欠かせない存在であり、三者一体である。しかし、それゆえにそのどれか一つが弱ると共倒れしかねない脆さを秘めている。