ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

ペースメーカーの夜明け:心室細動入院エピローグ

前編と後編では書けなかった、心室細動に至った原因や心房細動が頻発した原因、そして今後の治療方針について、記録のために書き記しておこう。

 医者の説明によると、心室細動が発生した原因として最も考えられるものは、低カリウム血症であった。緊急入院した時のおいらのカリウム値は2.2mEq/Lになっていた。一般的に、3.5mEq/L以下で低カリウム血症とされ、2.5mEq/L以下は重症である。低カリウム血症による症状は、消化器症状、筋力低下、脱力、神経・筋症状、多飲・多尿、四肢麻痺、呼吸筋麻痺、心筋興奮性亢進など様々だが、不整脈も起こりやすくなる。特に、低カリウム血症が重症であるほど心室細動などの致死的不整脈が起こりやすい。おいらは、重度の低カリウム血症状態の中、カテーテル検査で造影剤を吹きかけまくるという刺激を与えたため、心室細動は起こるべくして起こったと言える。

 おいらの低カリウム血症は、最近起こったものではなかった。過去の血液検査を見直すと、少なくても1年以上も前から、カリウム値は3.0mEq/L前後を推移しており、長期間低カリウム血症状態にあった。カリウムは細胞内にも蓄えられており、細胞内カリウムを放出したり取り込んだりすることで、血中カリウム濃度が平衡に保たれている。しかし、おいらの場合長期間低カリウム状態にあったため、細胞内カリウムも使い果たしていたようだ。そのため、入院中は点滴でカリウムを補充し、入院途中から退院後の現在もカリウムサプリメント薬(ケイサプライ)を服用することになったが、今だ血中カリウムは十分に回復できていない。

 心房細動が頻発するようになった理由は、はっきりとしない。上記のカリウムも一因かもしれないが、もう一つ考えられるのは、昨年12月から抗不整脈薬の種類を、アミオダロン(アンカロン)からサンリズムとべプリコールに変えたことだ。抗不整脈薬は患者によって効く種類が異なるようで、おいらはアミオダロンの方が適しているらしい。そのため、入院中にアミオダロンに戻すことになった。ただここで新たな問題が発生する。アミオダロンを長期服用していると、心房ペーシング不全を起こす場合があるのだった。そしておいらの心臓は、最近心房ペーシング不全になってしまった。入院によって、カリウムを上げアミオダロンに変えたことで、不整脈の発生は抑えられるようになった。しかし、心房ペーシング不全により心臓の力が弱まり、ちょっとしたことで疲れるようになってしまったのだった。今後こうした問題を解決するには、不整脈を抑えかつペーシング不全を起こさない新たな抗不整脈薬を見出すか、ペーシングが乗りやすい心房部位にリードを差し替える手術を受けるしかない。ただ、リード交換術は開胸手術となるため、体の負担が極めて大きくリスクが高い。

 おいらの今後の治療方針はまだ確定していない。ペースメーカーを全取替えするのか、内服薬によって調整するのか、それともアブレーションをするのか。現状は内服薬の調整による様子見だが、おそらくいずれアブレーションとペースメーカー全取替えの両方をやることになるだろう。前回も書いたが、それは命を懸けた闘いになる。おいらには、心から信頼し命を預けたいと思える医師と病院がある。5年前TCPC conversion手術とその後の消化管出血の地獄入院から救ってくれた病院である。ペースメーカー全取替え手術をするなら、その病院にお願いしたいと思っており、近いうちに相談をしようかと考えている。