ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

穿刺で戦死

今年の上半期は、ここ3年ほどの中でも特に心臓の調子が悪い半年となってしまった。1月にはカテーテル検査中に心室細動を起こし、死ぬかと思うほどの苦しみを味わった。その後も心房細動や心房粗動が月に2、3回おき、その度に電気ショックを受けた。さらにペースメーカーが不調になり、度々ペーシング不全になった。現在はセンシング不全も起きている。不整脈やPM機能不全になるたびに、倦怠感、息苦しさ、疲れやすさ、心不全等の症状が現れ、日常生活を送るのさえ一苦労だった。追い討ちをかけるように、不整脈アミオダロンの長期服用の副作用で甲状腺機能低下症になり、強烈な寒気と倦怠感に襲われたりもした。このままでは心臓が確実に弱っていくのは明らかであり、不整脈とペースメーカーの治療が喫緊の課題になった。

 その第一弾として、今月末にまずカテーテルアブレーションによる不整脈治療を受けることが決まった。しかし、心外導管型フォンタンの患者にとって、通常のカテーテル手法は使えないという大きな問題がある。なぜなら、カテーテルを心房に到達させるルートがないからだ。厳密には、大動脈から心室に入り、そこから強引にカテーテルの管を曲げて、心房に入る逆行性アプローチがある。しかしそのためには、何枚もの弁を通らなくてはならず、かつ心房までの経路が複雑に曲がっているため、極めて難しい方法となってしまいリスクも高い。その代わりとして編み出されたのが心外導管穿刺法という、それはそれでまた難易度の高い手技である。

 心外導管穿刺法とは、名前の通り心外導管からカテーテルを突き刺して、さらに右心房の壁も貫通させ、カテーテルを到達させようという方法である。そこには数々の困難が待ち受けている。まず、大腿静脈からカテーテルを入れ、心外導管まで到達させる。そして、カテーテルの先端からブロッケンブロー針と呼ばれる穿刺針を出し心外導管の壁に突き刺す。しかし、針が導管の壁を滑ってしまい、容易に刺さってくれないことも多い。その場合は、スネアと呼ばれる別のカテーテルで針を固定したり、針のついたカテーテルをより鋭角に曲げたり、それでもダメな場合は高周波エネルギー経中隔穿刺針と呼ばれる特殊な針で刺したりもする。

 しかし、問題はそれだけで終わらない。なんとか針を刺せてもカテーテル本体が太くて入らないことがある。その場合は、導管に開けた穴をバルーンで拡張させるといった一工夫が必要になる。この一連のプロセスを確実かつ安全に行うためには、事前にCT検査等により心臓や血管の構造を3次元的に十分把握しておく必要がある。また、穿刺の際には放射線透視・血管内エコー・経食道エコーのモノクロで不鮮明な画像を頼りに、間違いなく針を刺さなければならない。想像するだけで恐ろしく難しそうである。こうして、なんとかカテーテルを心房内に到達できたのちに、電気生理検査とアブレーションのプロセスに進むことができる。

 心外導管穿刺法が行われ始めたのは、まだ新しく2009年ごろからのようだ。その後実施例は限られてはいるものの、2018年ごろには一連の手法が確立して、より安全に行えるようになった。国内でも2012年から実施例が報告されている。

 今回は、心外導管穿刺法について自分の理解の整理と記録のために、医学書のように淡々と解説してしまった。きっと読んだ方は退屈だったに違いない。しかし、知識が整理できたおかげで、おいら自身は今度受けるアブレーションへの不安や恐怖心が少し和らいだ。でも本音はこうした知識はさして重要ではなく、目下心配なのは、このアブレーションを全身麻酔か無意識状態でやってもらえるかどうかである。過去4度アブレーションを受けたことがあり、2度は無意識下でやってもらえたが、2度は意識がはっきりあり激痛でトラウマになった。今度のアブレーションはこれまで以上に困難であることが予想され、もし意識があれば次こそ戦死するに違いない。だから事前説明の際には、無意識状態でやってもらえるようなんとしてでも懇願しようと思っている。

 

参考文献

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