ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

アブレーションであぶねえ小便

明日からカテーテルアブレーションを受けるため入院する。期間はわからないが、問題が起きなければ1週間くらいであろう。以前にも書いたように、過去に受けたアブレーションでは長時間の激痛を伴ったため、今回もそうならないかという不安で頭が一杯になる程だった。先日の術前診断で、医師から全身麻酔下でやることを告げられ、心の中でガッツポーズした。

 とはいえこれで一安心するのは早計で、もう一つ大きな関門が残っている。それは、導尿カテーテルを入れることである。導尿カテーテルは男性の場合、とてつもない痛みを伴う。まず入れる時。これはおそらく麻酔で眠った後にやってくれるだろうから大丈夫だろう。ちなみに、麻酔前に入れたことも何度かあるが、そのあとはうぎぃいいいと呻きながら全身が震えるほど痛い。そして抜くとき。こちらは麻酔が覚めて意識がある中で抜くことになるだろう。ただ、おいらの経験では、入れるときに比べると一瞬で終わる上、痛みも5分の1くらいだ。まあだからそれほど恐れてはいない。

 最も心配なのは、導尿カテーテルを入れた際に尿道が傷ついた場合だ。そのときはカテーテルが外れた後尿をだすたびに傷口に染みて、まるで熱した火箸を尿道に突き刺しているかのようなおぞましい痛みが走る。その時もまた痛みで全身が震えてしまい、そのたびに震えて尿が飛び散るのを必死に抑えなくてはいけなくなる。痛みと震えと呻き声を必死に耐えながら尿をする姿は、自分のことながらうんざりするほど情けなくなり、なんでおいらは尿をするだけで3重の苦を耐えなければならないのかと、この時ばかりは自分の運命を呪ってしまう。痛みは傷が回復するまでおおよそまる1〜2日かかる。

 ただし、この痛みは尿道が傷ついていなければ起らない。傷がついているかどうかは、管を抜いた後初めて尿をした時にわかる。それは最も緊張する瞬間である。バンジージャンブを飛ぶ前のように、中身の見えない箱に手を突っ込むかように、恐怖で何度もためらい引き返してしまう。そしていざ覚悟を決めた時には、呼吸を整え歯を食いしばり目を閉じて、ゆっくりと力を抜いていく。もしこの時トイレではなくベッド上で尿器を使って出す場合には、細心の注意を払わなくてはいけない。激痛で身悶して尿器から外れれば、ベッドがビシャビシャになってしまうからだ。

 幸いにも尿道が傷ついておらず痛みがなかったならば、底知れぬ安堵感で深く息を吸い込むことであろう。これでアブレーションの戦いは終わった。おいらはアブレーションで痛みや苦痛をほとんど感じずに乗り切ったのだ*1。その勝利の余韻をより深く味わうために、自販機でお好みのジュースを買いちびちびと飲むのだ。

 今回はアブレーション後の尿にまつわる情けない不安を長々と書いてしまった。しかし、見方を変えれば、尿一つにも一生忘れられないドラマがあり、そこには恐怖、不安、痛み、安堵、喜びが詰まっている。だからもしあなたが人生に退屈していたり、何か変化を求めているのならば、導尿カテーテルをやってみるのも良いだろう。

 

*1 実際には、穿刺部の止血のために腹部や腿にがっつり貼っているテープを剥がすのも相当痛い。丁寧な看護師さんや医師が剥がしてくれるときには、テープリムーバーを塗ってゆっくり剥がしてくれるが、雑な人だと容赦なくベリベリ剥がす。その時には皮膚が一緒に剥がれたかと思うほど痛い。