ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

これだけはお前らに約束する。

先日、何年かぶりに旧友二人からメールをいただいた。それぞれの近況を話してくれて、おいらも自分の近況を話し、久しぶりの会話にとても嬉しかった。その二人のメールとは別においらに朗報のメールが届いた。投稿していた論文が雑誌に掲載される見込みとなったのだ。論文の掲載は、研究者にとって最も嬉しい瞬間であり、愛の告白が成就したような気分になれるのだ。

 さらにもう一つ、おいらにとっては喜ばしいというか、少し胸をなでおろした出来事があった。ご存知の通り、数日前首相が辞任を表明したことだ。先日も書いたように首相個人の病気については、それを理由に差別や誹謗中傷をしては絶対にいけないと思っている。それはそれとして、正直言うと彼が行ってきた政治には心底うんざりしていた。それがやっと終焉を迎え、頭の片隅に常に居座っていたどんよりとした不快感がほんの少しではあるが取り除かれた気分になれたのだった。そんなわけで、一つ一つはとても些細なことだがおいらにとって喜ばしい出来事が重なり、いつになく穏やかな気分に浸ることができた。

 そんな他人にはどうでもいい話がしたいわけではない。本題は、最初に紹介した旧友のメールの中にあった一言だ。それは「困難はそれを乗り越えられる人のところにくる」という言葉であった。この言葉を見たとき、以前ツイッターで先天性心疾患を持つご本人かその親御さんが似たような言葉を知人から言われ、とても嫌だったとツイートしていたことを思い出した(「神はその人が乗り越えられる病気しか与えない」だったかもしれない)。そのツイートには多くの賛同リプライがついており、嫌悪感や怒りが共有されていた*1。

 確かに、本当に重い病気を抱え日々苦しんでいる方々には、こうした励ましの言葉はかえって傷ついてしまうかもしれない。好きで病気や障害を持ったわけではないのに、自分の病気はなるべくしてなったと言われているように感じるからだ。とはいえこうした言葉に敏感に反応し傷ついていては、自分自身が消耗してしまう。

 そこで、今とても心がおおらかなでなんでもwelcomeなおいらだったら、江頭2:50ばりの返しをしてむしろ前向きにその言葉を受け止めたい*2。

 

  病気はそれを乗り越えられる人のところにしかこないものだよ。

えー!この病気半端ないよ。俺に期待しすぎだぜ。

 期待じゃなくて、実際あなたは病気を乗り越えられる強い人だと思うよ

俺、とんでもなくマゾじゃん。確かに、これまで数々の激痛も乗り越えてきたよ。注射するときもガン見しちゃうし、なんならどんだけ痛いのか期待しちゃうからさあ。 

 いや、そういうことでもなくて。

そうか、わかった!これを乗り越えたら超グレイトな特典があるのか。後々100億円くれるとか。そりゃたまんねえな。伝説作っちゃうよ。

 それはちょっとわからないけど。

 なに?特典なしの激痛だけ?! おい、そりゃないよ。今時若手芸人でもやらないぜ。

でも、俺はずっと戦っていくからな!

病気がどれだけ俺を苦しめようと

俺は全部乗り越えてやるからな!

これだけはお前らに約束する!

 

*1 どうか旧友のメールに悪い印象を持たないでほしい。おいらは、旧友を非難したいわけでは決してない。旧友のメールの言葉は、おいらに対してではなく自分自身に対して書いた言葉であり、仮においらに対して言っていたとしてもおいらは全然嫌にならないだろう。そして、あえて恥ずかしげもなく言えば、旧友は大学時代の親友であり、おいらは彼を心より尊敬し憧れを抱き、紳士的な男だと思っている。その気持ちは今も全く変わらない。これだけはお前らに約束する。

*2江頭2:50風のセリフは、ネットで検索した江頭名言集を一部借用した。ただし、それを実際に本人が言ったかどうかの真偽は定かではない。