ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命についてつづるよ。

人生最悪の地獄入院

今年は新年早々から入院した。その入院は過去最悪の地獄のような入院だった。三途の川やえんま大王をみたりはしなかったものの、いっときはこのまま病院で死ぬんだろうと思った。また、苦しさのあまり死んで楽になりたいとも思った。かなり大げさかもしれないが、今こうして家で元気に過ごしていることが奇跡に思える。おいらは、痛みや苦しみ、ストレスに弱く、すぐへこんでしまう。だから、他人からみればたいした苦ではない話だろうが、記憶が新しいうちに記録しておこう。
 前年末から体の調子は悪くなっていた。体が重くてだるく疲れやすく、足がむくんで口が渇き、気力がでなかった。精神的に落ち込んでいるためだと思っていたが、見かねた妻が病院への受診を勧め、かかりつけのNC病院に行った。血液検査の結果、ヘモグロビン値が10以下に低下し、貧血状態になっていた。また、血中蛋白のアルブミンや総蛋白も下がっていた。その日のうちに緊急入院となり、早速輸血と蛋白補充の点滴をした。このときは、医師もおいらも数日の輸血等で退院できるだろうと踏んでいた。だが、その後様々な症状が連鎖的に発生し4ヶ月半にわたる戦いとなったのだ。
 貧血の原因は消化管から出血していると予想され、内視鏡検査を受けることになった。NC病院では内視鏡の機器がそろっていないため、連携しているSD病院に翌日転院し検査を受けることになった。転院その日にまず胃の内視鏡検査を受けた。幸運にも内視鏡検査のときは、眠らせてくれるため検査は非常に楽に受けられた。しかし、その日の検査では胃にまだ内容物が残っていたことと、出血部位が腸のもっと奥の方である可能性があったため、翌日改めて内視鏡検査を受けることになった。
 今度は内容物を全部きれいに出すために、検査日早朝から下剤2Lを飲むことになった。下剤2Lを飲むのは大腸検査では一般的である。常に水分がぶ飲み願望のあるおいらは、このときはラッキーとすら思った。が、飲み始めてその楽しみは瞬殺された。下剤の味は、少ししょっぱくにがく酸っぱいような感じである。色は少し白く濁っていた。人によってはポカリスエットに似ていると言う人もいるが、おいらからすればひどい表現だがつばを大量に飲んでいるような気分だった。飲めば飲むほどにまずくなっていった。おいらは氷を入れてカキンカキンに冷やして飲んだり、途中でお茶や水で口直ししたりしたが、どんどん吐き気が込み上げ耐えられなくなってきた。おいらと同じように、吐き気をもよおす人もいるが、それほどまずく感じずに飲める人もいるらしい。超人である。下剤を飲んでいる途中から、下痢が始まり何度もトイレに通った。便の色はまるで岩のりやコールタールのような真っ黒になって、何度出しても黒さが変わらなかった。黒いのは便に血が混ざっている証拠である。入院前の便の色ははっきり覚えていないものの、そんな黒ではなかった。結局1.5Lほど下剤を飲んだところで、限界に達したおいらはマーライオンのように口から下剤を噴射した。これ以上下剤を飲めなそうだったため、浣腸を2回してできるかぎり腸内をさらに洗浄し、なんとか検査を受けられることになった。
 検査の結果、ドボドボと出血しているような部位はなかったものの、ところどころ消化管表面に血管が浮き出ていて、そこからじわじわと出血しているようだった。後にわかることだが、腸管からの出血は、蛋白漏出性胃腸症のさらに進んだ状態であった。世界的にも報告例がまだ少なく、2006年にアメリカのグループが3名の患者の事例を報告している。また、日本国内では岡山大学で事例があったらしい。岡山大学の事例では、蛋白漏出性胃腸症の末期状態にあると診断された。
 先日も書いたが、おいらは3年半前から蛋白漏出性胃腸症(PLE)を発症し、ステロイド投与と蛋白点滴補充の治療を継続している。3年半の間に何度かPLEの改善と再発を繰り返した。再発するたびに、入院してステロイドを増量し、蛋白補充の点滴を受けた。ステロイドの長期服用は、糖尿病、白内障骨粗鬆症、ムーンフェイス、多毛、脱毛、などさまざまな副作用がでるため、減量していく必要がある。しかし、ステロイドは一気に減量することができないため、始め40mg/日の量を飲み始めたとしたら一年くらいの期間で徐々に減量して離脱を目指す。が、おいらの場合はある程度減量するとまたPLEが再発してしまうのであった。その度に、40mgに増量、徐々に減量を繰り返した。再発までの期間も徐々に狭まっていった。はじめは一年くらい再発せず、ステロイドも3mgまで減量できた。しかしその後は、半年、4ヶ月と短い期間で再発し、ステロイドは10mgを切ると再発するようになった。そしてついに、PLEの末期状態とされる消化管出血にいたるのだった。
 2度の内視鏡検査を終え、一旦NC病院に戻り様子を見ることになった。しかし、検査後からみぞおちの辺りがムカムカとして痛くなり、吐き気が続いた。症状は日に日に悪くなり、胃腸薬を点滴で投入したり、止血剤や鉄剤をのんだり、食事をおかゆなど優しいものにしたりなどしたが、改善しなかった。寒気がし、だるくしんどく息苦しかった。いっそ死んで楽になりたいとさえ思うようになった。アルブミンヘモグロビンの値は下がり続け、連日点滴で補充したり輸血したりした。便の色は相変わらず真っ黒だった。そのため、再びSD病院に転院し更なる内視鏡検査を受けることになった。この時点ですでに体調はボロボロであったが、転院後雪崩のようにさらに体調は崩れ落ちていき、地獄が幕を開けた。