ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

2017-01-01から1年間の記事一覧

夢の競争

この冬、息子はスキー留学のため前に住んでいた山間部に旅立った。妻も保護者として同伴したため、おいらは一人南の島でお留守番である。本当は一緒についていきたかったが、仕事を休むことになり収入がなくなってしまう上、寒さに耐えきれそうになく、島に…

りんごが赤くなると医者は喜ぶ

りんごが赤くなると医者が青くなる。栄養のあるりんごを食べていると病気にならず医者いらずという意味のことわざで、世界にも類似のことわざが存在する。しかし、このことわざ、医者にとってはずいぶんと失礼な話で、全くもって正しくない。 前に住んでいた…

Death is a natural part of life

「死は生きることの一部だ」。映画スターウォーズで、ジェダイマスターのヨーダが言った名言である。800年以上生き続けジェダイの頂点に立つヨーダが言うと、確かにとても深みのある言葉に感じる。がしかし、先天性心疾患者にとっては当たり前な感覚である。…

植物とかけてコンビニと解く

しばらく前、息子の学校の教室で、おいらがやっている植物の研究について話す機会があった。話終わった後、生徒から「なぜ植物を研究しているのですか」と質問された。おいらは、待ってましたとばかり得意げにその理由を答えた。おいらが植物を研究する最大…

弾切れ

先日の予想は見事に外れた。が、それはいい方向でのハズレだった。タンパクはわずかながらさらに改善したのだ。フルイトランによる絶妙なコントロールが効いたのだ。次の診察は3週間後になった。今後もフルイトランを飲む量を調節すれば良い状態を安定できる…

体重は物語る

明日はまた診察である。しかし、この1週間の体重の変化からだいたい検査結果の予想はついている。2週間前にフルイトランを毎日飲み続けた結果、大量に水抜きされ、タンパク量は大幅に改善した。その反面、脱水気味となり、フルイトランの服用を中止した。服…

大放水

先週、入院の最後通告を突きつけられたが、フルイトランという利尿剤を増やしてあと一週間悪あがきすることになった。水抜きすれば、血中タンパクの濃度が上がるからだ。さらに駄目押しに、ハイゼントラ4g/20mLを2本打つことにした。これらの対処療法は見事…

鳥になりたい

日本最大の湖、琵琶湖。その湖で、毎年鳥を夢見て人々が熱い挑戦を繰り広げている大会がある。鳥人間コンテストは、おいらが子供の頃毎年楽しみにしていた番組だった。いつの時か、ついに琵琶湖対岸まで飛行して飛行距離の限界に到達するまではよく見ていた…

研究材料になる研究者

おいらの症例は、これまでに少なくとも2回医学系の学会で発表されているようだ。そのどちらも、フォンタン再手術を受けた病院の医師による発表である。研究のデータとして使う際には、事前に同意書の記入を求められる。おいらも研究者の端くれだから、おいら…

最大の喜び

両親が、おいらのことで一番喜んだ時のことは、今でも強く心に残っている。それは、心臓の手術を無事終えた時、ではない。もちろんその時も喜んだと思うが、喜びより安堵感の方が大きかったろう。それに、おいら自身は手術後すぐは眠っているか意識が朦朧と…

強がる心、弱い心臓

先日、数年ぶりに旧友から連絡が届いた。おいらが黄金期だった時の友人だ。おいらが今南の島で住んでいることを伝えると、旅行がてら行ってみようかと話してきた。が、おいらは、おいらに会ってもつまらないから来なくていいと言ってしまった。本当は会いた…

APCフォンタン術患者の30年後の運命

まさに自分が該当する興味深い論文を見つけたので紹介したい。 Chin Leng Poh et al. (2017) Three decades later: The fate of the population of patients who underwent the Atriopulmonary Fontan procedure. International Journal of Cardiology 231:9…

すりすりりんご

たまには子供の頃の話をしよう。先天性心疾患を持って生まれると、激しい運動ができないとか、ちょっとしたことで息切れするとか日常の不便だけではなく、些細な病気にもなりやすい。だから子供の頃は、よく風邪などで学校を休むことが多かった。特に多かっ…

ステロイド党

現在、日本の政治の世界は、かなり右傾化した。右派政党が大多数を占め、左派政党の議員は絶滅に瀕している。おいらが子供の頃は、左派政党が全体の3分の1強を占めており、さらに右派政党の中でも中道的立場の派閥があったりした。だから全体としてみると…

3%で変わる生き方

フォンタン再手術後から、おいらのサチュレーションの値が少し下がっているのがずっと気になっていた。手術前は96%ほどだったが、手術後は93%ほどしかいかなかった。先日、今診てもらっている医者にそのことを聞いたところ、ようやくそのメカニズムがわか…

水と緑の豊かな病室

すっかり間が空いてしまったが、また2年前の再手術の時の話に戻ろう。前回までのおさらいをすると、手術を終え、やっと一般病棟に戻ってきたところだった。 一般病棟はともかく明るい。眩しいほどに陽の光が差し込んでくる。窓を開けると生暖かい風があたり…

チキンレース

おいらの体には致死性の病気がいくつも潜んでいる。まず本家の心臓は、不整脈などによる急性心不全で突然死する可能性がある。そうでなくても心機能が年々低下し心不全になるのは避けられない。それから先日切除した大腸ポリープは異常な数と増殖速度だった…

古傷

数々の手術、検査を繰り返してきたおいらの体には、たくさんの傷跡が残っている。一番大きいのは、胸にある開胸手術の手術痕で、胸の真ん中と右脇にT字のような配置でそれぞれ20cmほどのものがある。真ん中の傷は過去に3回開けており、3歳、12歳、39歳の時に…

落ちるものは怖い。

先日入院していたある晩、激しい雨雲が流れてきた。スコールのような豪雨とともに、何度となく雷が落ちた。時には病院からすごい近くで落ちて、空気が裂ける音がした。病院全体もビリビリと震えた。おいらのベッドはちょうど窓際だったので、怖いもの見たさ…

ムーベンで無理便

今日は汚いシモの話をしよう。お嫌いな方は読まないことをお勧めする。 昨年の地獄入院から15ヶ月。ついに再び入院することになってしまった。そのためしばらく記事を更新できなかったが、入院中に書きためたので、この後もあまり日を置かず続けて載せていき…

破壊生物学者

南の島に住んでいるのだから、一度は熱帯魚が群れる海の中をシュノーケリングをしてのぞいてみたいものだ。先日、ついにその願いが叶った。干潮時にできたサンゴ礁内の浅いタイドプールでシュノーケリングをしたのだ。そこはとても浅く、ほとんどのところは…

ICUは命のゆりかご

約一月ぶりになるが、再手術の話を再開しよう。前回までに2度の手術を終え、ICUで目が覚めてから3日目になったところまでお話しした。そして3日目。いよいよICUが出られることになりそうだった。ほとんどの医療ドラマでは、ICUの生活が描かれることはない…

旅は入院の始まり

子供の頃、手術入院の前にはご褒美として特別な旅行に連れて行ってもらえた。ある時はディズニーランドへある時はグアム旅行だった。入院前で気持ちは落ち込んでいたが、その時ばかりは入院のことを忘れ、無我夢中で楽しんだ。そのためそれらの旅行はとても…

安物買いの命失い

来週、九州へ旅行に行く予定を立てている。南の島に移り住んで以来、初めて島の外に出る旅になる。飛行機は、しばらく前に障害者との間でトラブルがあったLCCを使う予定である。正直、LCCは狭かったり、ターミナルも遠かったりと疲れが大きいので、できれば…

一番効く薬

おいらは、毎月1、2回検診で仕事を休んでいる。一般的な企業では病欠という休暇の制度がない。病気で休む時は、有給休暇を消化するか、減給覚悟で欠勤扱いになるしかない。そして今の職も、会社に雇用されているので、やはり病欠休暇というものがなかった…

渋滞が渋滞を引き起こす

おいらの住む南の島では、至る所で渋滞が発生している。その原因は、車の台数が多すぎるためだそうだ。県民一人にほぼ一台の割合で持っているらしい。さらに、暑い気候のため、ちょっと出かけるにも車を利用するのが習慣になっているせいもある。渋滞を避け…

永遠に続く砂漠

また、再手術の話を再開しよう。 2度目の手術を終え、目がさめると朝だった。もちろん朝だとわかるのは後々のことで、実際はICUでは窓もなく時間の感覚もない。しかし、時間の感覚がないことは実は患者にとってかなりストレスになる。後日記録を見ると、午…

天国から生き返る果実

しばらく、暗い話が続いてしまったので、今日は大好きな果物の話をしよう。おいらの住んでいる南の島では、今パッションフルーツが旬である。スーパーなどで一つ100円くらいで売られている。中を開くと、黄色い果汁とカエルの卵を思わせる黒い種子がたくさん…

入院もやむを得ぬ

先日、一ヶ月ぶりの定期検診があった。残念なことに血液検査の結果が思わしくなく、大幅に数値が悪くなっていた。血中タンパク量やヘモグロビンが下がっていたのだ。次回の検診でさらに悪くなっていたら、入院は避けられないかもしれない。今年に入ってから…

二度と繰り返してはいけない世界

おいらが住む南の島は、太平洋戦争時に最後の激戦地となったところだ。先日その慰霊の日があった。その日おいらは、息子と一緒に近くのプールに出かけた。その前日に梅雨明けしたばかりで、夏の始まりという暑い日だった。72年前もこの日に梅雨明けしたらし…