ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

入院

縦隔炎入院②:フォンタン循環で静脈経由ペースメーカー設置は可能か

長い間保留にしていた2度目の縦隔炎入院についてお話したい。 入院は5月下旬から始まった。入院当初の計画から手術は最低3回を予定した。今回クリアしなければいけない課題は、①縦隔炎の感染部分を除去して徹底的に洗浄し、できるだけ菌の総量を減らすこと…

一つの物語が終わり、一つの物語を書く

前回の記事から、3ヶ月が過ぎた。その間何をしていたかと言うと、前回の記事の最後に書いたように縦隔炎が再燃したため、5月下旬から7月中まで2ヶ月弱入院していた。入院中や退院後は、記事を書く時間はたくさんあったが、精神的・肉体的ゆとりがなく書…

再び目覚めた小さな怪物:縦隔炎入院①-抗生剤治療編

前回の記事から、一ヶ月以上記事を書かずに過ぎてしまった。この間、4週間弱入院していた。今回の記事は、その4週間弱の入院について記録したい。記事が書けずにいたのは、入院中であったからともいえるが、実際入院中は書く時間がたっぷりあった。しかし…

バナナ以上に素直な生き方

『こんな夜更けにバナナかよ』は、筋ジストロフィーを抱える鹿野靖明氏の生活を取材したノンフィクション作品の本である。ボランティアとの交流や自立生活の実態が詳細に描かれた作品として評価され、映画化もされたのでご存知の方も多いだろう。おいらも何…

小児が性に合う:心外導管穿刺法アブレーション入院後編

アブレーション入院の続きを書こう。アブレーションの翌日、朝9時に主治医の先生が来て、すぐに脚の付け根に何重にも貼ったテープを剥がしてくれた。テープを剥がす時は予想通りかなり痛かったが、途中から自分でやらせてもらえたため比較的楽にはがせた。テ…

二箇所から吹き出す血の池地獄:心外導管穿刺法アブレーション入院前編

アブレーション入院から退院した。日曜日から日曜日までの丸一週間の入院だった。それぞれの日に起こったことを記録のために記し、最後に感想的なものを書いておく。 入院初日。担当医は現在の小児循環の主治医と、もう一人やはり小児循環の若い先生だった。…

アブレーションであぶねえ小便

明日からカテーテルアブレーションを受けるため入院する。期間はわからないが、問題が起きなければ1週間くらいであろう。以前にも書いたように、過去に受けたアブレーションでは長時間の激痛を伴ったため、今回もそうならないかという不安で頭が一杯になる程…

頑張ることの断捨離

気づけば丸々1ヶ月このブログを更新できずにいた。理由はいくつかある。一番大きな理由は、ゴールデンウィーク前にうっ血性心不全を発症してしまい、GWは入院しその後も息苦しい日々が続いたためだ。入院前と入院中は、実に息苦しかった。特に夜中から午前中…

泣く勇気:心室細動入院後編

ICUに移ってから、当初の2日間の滞在という説明とは異なり3日目に突入していた。ICUでの生活は、気が狂いそうなほど口が乾き、鼠蹊部に刺さったシースのためにほとんど身動きが取れず、騒音と光で一睡もできない状況を耐え続けなければいけなかった。あまり…

我を失った心と心臓:心室細動入院前編

先日10日間ほど緊急入院した。それは過去に経験したことがない種類の苦しみを味わい、死を強く意識した入院になった。少し長くなるが、その詳細を記録しておこう。 年明け早々から体調はすぐれなかった。心房細動が発生し病院で電気ショックを受け一度は止め…

静かな時間

入院しているときに、何気に大きなストレスになるのが音である。昼夜を問わず常にどこかで音がなっている。心電図モニターのピコピコ音やアラーム、ナースコールの呼び音、誰かの足跡や話声、いびき、うめき声。気になり始めると、人によっては気が狂いそう…

中性存在

今回は、成人男性患者の恥ずかしい悩みについて少し赤裸々にお話ししたい。 入院すると、身の周りの世話を看護師さんにしてもらう機会が多くなる。特に、手術後など寝たきりの状態になっているときは、衣服や下着の着替え、トイレ介助、体拭き、など全てをさ…

Perfume体操

少し時間を遡って、3年前の地獄入院の時の小話をしよう。地獄入院の時のおいらは、腰痛と腰椎圧迫骨折のダブルパンチによって、一時期寝たきりになってしまっていた。日に日に筋力を失い、痩せ細っていく体。当時おいらのリハビリを世話してくれたスパルタの…

覚悟の時代

年度の始めは、新しい職場や学校に通い始めたり、初めての地域に住み始めたりと、多くの人にとって不安と期待の時期である。特に今年は新元号が発表されたこともあってか、一段とまばゆい雰囲気に包まれている。おいらもまた、今年は例年になくなんだか明る…

Dreams come true

朝の国民的ドラマの中で、「人の夢の話ほどつまらないものはない」というセリフがあった。というわけで、今回はおいらのつまらない夢の話をしよう。 その夢は、いつ見たのかわからない。おそらく子供の頃だろう。もっと言えば、夢なのか現実だったのかもいま…

インクレディブル・ファミリー

今から約30年前の12歳の時、おいらはAPCフォンタン手術を受けた。その時の入院の状況を両親が記録して1冊のファイルにまとめて残していた。ファイルには記録だけでなく、当時のクラスの同級生からいただいた手紙も保存されていた。どの手紙にも、おいらが手…

恐怖の支配

凄まじい虐待事件が起きた。虐待という言葉ではもはや軽すぎで、拷問や殺人と言うべき事件であった。事件の詳細が明らかになるにつれ、あまりの惨状に多くの人がそれ以上聞くことが耐えられないほどであった。虐待を受けた少女の心境を想像することは難しい…

入院ランキング

よく雑誌などに病院ランキングが出ていたりする。それは手術実績や病床数などを基にして、主に医療技術や施設の充実度で評価されている。もちろんそれらは極めて重要なポイントではあるが、入院患者にとってそれと同様に気になるのが入院生活の実態であろう…

総痛み量

今回の心筋梗塞の入院では、当然ながら様々な痛い出来事が続いた。入院中は、痛みのレベルを1から10で聞かれることが度々あり、10は涙が出るほどの痛みらしい。最初にあった胸や腕の痛みは大したことはないので痛みレベル2くらいだった。点滴ルートの注射や…

先天性 x 成人心疾患患者になる

左側の腕や胸、背中にあった重く鈍い痛みは、不安の通り、心筋梗塞の兆候だった。発症後、たまたま数日後に先天性疾患の定期診察があったため、診察時にその症状を伝えて追加の血液検査をしてもらった。主治医の先生は小児循環器が専門なので、心筋梗塞など…

大放水

先週、入院の最後通告を突きつけられたが、フルイトランという利尿剤を増やしてあと一週間悪あがきすることになった。水抜きすれば、血中タンパクの濃度が上がるからだ。さらに駄目押しに、ハイゼントラ4g/20mLを2本打つことにした。これらの対処療法は見事…

鳥になりたい

日本最大の湖、琵琶湖。その湖で、毎年鳥を夢見て人々が熱い挑戦を繰り広げている大会がある。鳥人間コンテストは、おいらが子供の頃毎年楽しみにしていた番組だった。いつの時か、ついに琵琶湖対岸まで飛行して飛行距離の限界に到達するまではよく見ていた…

水と緑の豊かな病室

すっかり間が空いてしまったが、また2年前の再手術の時の話に戻ろう。前回までのおさらいをすると、手術を終え、やっと一般病棟に戻ってきたところだった。 一般病棟はともかく明るい。眩しいほどに陽の光が差し込んでくる。窓を開けると生暖かい風があたり…

古傷

数々の手術、検査を繰り返してきたおいらの体には、たくさんの傷跡が残っている。一番大きいのは、胸にある開胸手術の手術痕で、胸の真ん中と右脇にT字のような配置でそれぞれ20cmほどのものがある。真ん中の傷は過去に3回開けており、3歳、12歳、39歳の時に…

落ちるものは怖い。

先日入院していたある晩、激しい雨雲が流れてきた。スコールのような豪雨とともに、何度となく雷が落ちた。時には病院からすごい近くで落ちて、空気が裂ける音がした。病院全体もビリビリと震えた。おいらのベッドはちょうど窓際だったので、怖いもの見たさ…

ムーベンで無理便

今日は汚いシモの話をしよう。お嫌いな方は読まないことをお勧めする。 昨年の地獄入院から15ヶ月。ついに再び入院することになってしまった。そのためしばらく記事を更新できなかったが、入院中に書きためたので、この後もあまり日を置かず続けて載せていき…

ICUは命のゆりかご

約一月ぶりになるが、再手術の話を再開しよう。前回までに2度の手術を終え、ICUで目が覚めてから3日目になったところまでお話しした。そして3日目。いよいよICUが出られることになりそうだった。ほとんどの医療ドラマでは、ICUの生活が描かれることはない…

旅は入院の始まり

子供の頃、手術入院の前にはご褒美として特別な旅行に連れて行ってもらえた。ある時はディズニーランドへある時はグアム旅行だった。入院前で気持ちは落ち込んでいたが、その時ばかりは入院のことを忘れ、無我夢中で楽しんだ。そのためそれらの旅行はとても…

永遠に続く砂漠

また、再手術の話を再開しよう。 2度目の手術を終え、目がさめると朝だった。もちろん朝だとわかるのは後々のことで、実際はICUでは窓もなく時間の感覚もない。しかし、時間の感覚がないことは実は患者にとってかなりストレスになる。後日記録を見ると、午…

天国から生き返る果実

しばらく、暗い話が続いてしまったので、今日は大好きな果物の話をしよう。おいらの住んでいる南の島では、今パッションフルーツが旬である。スーパーなどで一つ100円くらいで売られている。中を開くと、黄色い果汁とカエルの卵を思わせる黒い種子がたくさん…