ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命についてつづるよ。

Dreams come true

朝の国民的ドラマの中で、「人の夢の話ほどつまらないものはない」というセリフがあった。というわけで、今回はおいらのつまらない夢の話をしよう。

 その夢は、いつ見たのかわからない。おそらく子供の頃だろう。もっと言えば、夢なのか現実だったのかもいまだにわからないものだった。おいらは手術室のベッドに寝かされていて、これから手術かカテーテル検査かを受けるようだった。すぐに麻酔が効き、意識を失った。ところが、しばらくしてまた目が覚めた。おいらの顔には、布が被されて何も見えなかったが、天井から非常に眩しい光が注いでいるのがわかった。ちょうど明るい部屋で瞼を閉じた時にみたいに、光が透けて見えたのだ。おいらの周りにはたくさん人がいるようだ。話し声や何かの器具の音がする。おいらの右側には外科医らしき人が立っているらしく、低い声で周囲の人に指示を出していた。どうやら、今まさにこれから手術が始まるような気配である。

 おいらは焦った。ちょっと待って!まだ起きてるよ!声を出したくても出せず、体を動かそうとしても指一本動かせなかった。このまま意識がある中で、胸を切られるのかと思うとたまらなく恐ろしくなってきた。そこで再び意識を失い、夢が終わった。実際にその後手術が行われたのか、あるいはなんでもないときに見た夢だったのかは、今となってははっきりしない。ただ、この夢の記憶だけは妙に鮮明に残っていて、手術中に目覚める恐怖心が体に染み込んでいる。

 その夢は20年以上の時間を経て現実となった。30代後半に受けたカテーテルアブレーションで、まさに夢と同じ状況になったのだ。手術台に寝て色々な準備が始まり、静脈麻酔を打たれてうとうとしてきた。あとは寝るだけと心地よい眠気に浸っていたが、なかなか完全に眠ることができない。そうこうするうちに顔に布が被され、人が集まってきて、いよいよ始まる気配になってきた。大丈夫。もうすぐ意識がなくなる。あと20秒ぐらいかな、いや10秒もないよ。そう思っている間にも、両鼠径部と首の部分にベチャベチャに消毒液を塗りたくられて、「何時何分、始めます」というスタートの合図が聞こえた。あれ、なんかやばい。次の瞬間、消毒を塗られた部位に一斉に麻酔の注射が打たれたのだ。おいらは、ぎいいいいいと声にならない悲鳴をあげ続けたが、悪夢のような現実からは逃れられなかった。