ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

家族

エバーちゃん

おいらの祖母が亡くなったのは、20年以上も前のことだ。おいらは、祖母が大好きだった。母方の祖母は、母が小さい時に亡くなっているから、ここでいう祖母とは父方の祖母のことである。 おいらは、常に死を身近に感じながら生きているようなところがあるので…

増え続ける喪失感

年々心臓が弱り体力が落ちていくとともに、使われなくなってしまったものがいくつもある。それらは家の片隅にあちこちに置かれており、一日の生活の中で何度も視界に入ってくる。普段はそれでも特に気にならないが、ふとしたときにそれがよく使われていた頃…

泣く勇気:心室細動入院後編

ICUに移ってから、当初の2日間の滞在という説明とは異なり3日目に突入していた。ICUでの生活は、気が狂いそうなほど口が乾き、鼠蹊部に刺さったシースのためにほとんど身動きが取れず、騒音と光で一睡もできない状況を耐え続けなければいけなかった。あまり…

疲れない生き方は、むしろ疲れる。

先天性心疾患の性質上、おいらは物心つく前から無意識のうちに、なるべく疲れないように人付き合いを避けて生きてきたようなところがある。幼い頃は、大勢の友達とわあわあ騒いで遊ぶより、一人か二人の友達とひっそりと遊ぶ方が好きだった。たまに加減を忘…

メスでは泣かないが雌では泣く

子供の頃のおいらは、どんなに痛い思いをしてもほぼ泣くことはなかった。注射をされても、メスで切りつけられても、手術後に体に刺さったドレーンを引き抜かれたり抜糸をされたり手術創を消毒されても、泣かなかった。母親の話では、物心つく前の幼児の頃か…

青い夢

二ヶ月前、地獄を味わった穴場ビーチに再び赴いた。一年中暖かい南の島とはいえ、9月に入ると秋の気配が少しずつ増していっていた。空の色は、まばゆい白から澄んだ青に変わり、雲は高く分厚くそびえ立つ入道雲から薄く柔らかい形に変わっていた。日差しは強…

我が子は幸せな人生を送れるだろうか?ーフォンタン循環の子供を持つ親の心配に関する研究

随分と重いタイトルの論文を見つけたので紹介したい。 du Plessis, K., Peters, R., King, I., Robertson, K., Mackley, J., Maree, R., … D’Udekem, Y. (2018). “Will she live a long happy life?” Parents’ concerns for their children with Fontan circ…