ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

我が子は幸せな人生を送れるだろうか?ーフォンタン循環の子供を持つ親の心配に関する研究

随分と重いタイトルの論文を見つけたので紹介したい。

 

du Plessis, K., Peters, R., King, I., Robertson, K., Mackley, J., Maree, R., … D’Udekem, Y. (2018). “Will she live a long happy life?” Parents’ concerns for their children with Fontan circulation. IJC Heart and Vasculature 18: 65–70.

 

背景:先天性心疾患の子供の家族の多くは、子供の将来、予後、健康状態等について過度の心理的不安を抱え、日々耐えている。しかし、そのことは従来の医学論文ではほとんど研究されることはなかった。そこでこの研究では、フォンタンの循環を持つ子供の親が抱える最大の懸念を検討した。

方法:オーストラリアおよびニュージーランドでフォンタンの子供の親に対し、自由回答式かつ非公開質問によるオンライン調査をおこない、107名から回答を得た。調査結果の分析は、主題分析という手法によりアンケート調査の結果を分類し整理した。

結果:フォンタン循環の子供の親にとっての最大の懸念は、子供の死への恐怖と心理・社会的幸福であった。また、抗凝固薬の使用や妊娠、経済的負担に関する懸念もある程度あった。

結論:この分析から、親子双方の心理的・社会的不安を改善するためには、将来、予後、健康状態等に関する正確な情報を家族に伝えることと、家族への心理的支援が必要であると言える。

 

おいらの解釈と補足説明

論文のタイトルは重苦しかったが、結果や結論はある意味予想通りというか当たり前のような内容だった。そりゃあ、子供がフォンタン循環だったら、いろいろ心配事は尽きないよ。そして、その不安を少しでも軽減するためにも、正確な情報と支援が必要なのだって、その通りである。とはいえその必要性が現実に果たされているかというと、必ずしもそうとは言えないかもしれない。

 実際の本文では、もっと辛辣で厳しい現実を突きつけるような分析結果を記述している。気が重くなるので詳しくは書きたくないが少しだけ紹介すると、フォンタン循環の子供を持つ親は、うつ病PTSDなどの精神症状を発症してしまう確率が高く、特に子供の病気の重症度が高かったり、心臓手術後間もない時期にその傾向が現れやすいという結果が示されていた。他には、多くの親は子供の身体的な健康問題以上に、心理的精神的な健康問題の方をより心配していることだった。これは裏を返せば、心疾患そのものへの医療ケアは充実しているが、精神的ケアはまだまだ十分ではないことを示しているのだろう。

 おいらも、子供の頃から今に至るまで、病院で精神的ケアをあまり受けた印象が少ない。大人になってから入院したときには、何度か看護師さんや患者支援員の方に不安をぶちまけて相談することもあった。でも、最終的にはなんとか自分で気持ちを整理して解決していくしかなかったように思う。ひどい時には、絶望的になり毎日涙に暮れて、家族や友人にぐちゃぐちゃにすがってしまったこともある。しかし、時が過ぎ今になって振り返ると、どこか恥ずかしい思い出にも思えてくる。

 おいらがこのブログを書く動機も、フォンタン循環を持つ患者の一人としてこれまでの経験を正確にお話し、患者本人とその家族に少しでも役立つ情報を伝えたいという思いがあるからだ。もしかすると、おいらの書く内容は不安を軽減するどころか、煽ってしまうようなこともあるかもしれない。でもたとえそうだとしても、この論文の結論でも述べられているように、詳しい情報を知ることが心疾患の子供の将来にきっと役立つと信じている。