ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

再び目覚めた小さな怪物:縦隔炎入院①-抗生剤治療編

前回の記事から、一ヶ月以上記事を書かずに過ぎてしまった。この間、4週間弱入院していた。今回の記事は、その4週間弱の入院について記録したい。記事が書けずにいたのは、入院中であったからともいえるが、実際入院中は書く時間がたっぷりあった。しかし…

エバーちゃん

おいらの祖母が亡くなったのは、20年以上も前のことだ。おいらは、祖母が大好きだった。母方の祖母は、母が小さい時に亡くなっているから、ここでいう祖母とは父方の祖母のことである。 おいらは、常に死を身近に感じながら生きているようなところがあるので…

読まれる学術書の書き方

昨年末行ったシンポジウムの講演の話を本にまとめるために、原稿を書いている。締め切りは8月末でまだしばらく先ではある。しかし、早くも書き終わるか不安で、常にそのことが頭の片隅にこびりついてしまっている。平日は仕事と家事で疲れてしまうため、書…

東京都心で体験した震災:後編

前編のおさらい。東京駅で地震にあったおいらは、その後隣の駅にいた妻と子供と無事合流し、10kmほど離れた実家を目指して歩き始めたのだった。 震災が起きた頃のおいらは、今のように心臓の調子が悪くなっておらず、人生の中で一番体力がある時だった。おか…

都心で見た震災:前編

まもなく東日本大震災から10年になる。テレビでも連日特集番組が放送されており、もうすでに多くの人々によって語り尽くされた体験談ではあるが、おいらもあの日の体験を記しておきたい。 おいらは2011年3月11日のあの時間、東京駅にいた。北海道で開かれた…

COVID-19と先天性心疾患:9人の子供の症例

今回は久しぶりに論文紹介をしたい。しかし、以下に紹介する論文は先天性心疾患の子供を持つ親御さんにとっては、不安が増すだけであまり知りたくない情報かもしれない。でもおいら個人の考えとして、たとえネガティブな情報であっても、それを知ることによ…

狭まる美味

新型コロナに感染すると、味覚障害や嗅覚障害が生じて味や匂いが分からなくなる場合があると言われる。幸いおいらは、これまでの人生で味や匂いがわからなくなるような症状は経験した記憶がないが、味や匂いの感じ方(好き嫌い)が体調によって変わった経験…

負を感じる感覚

今日は少し短めの話をしよう。 おいらは、楽しく明るく幸せな日常を望んでいる一方で、どこかその反対の悲しく暗く辛い状況を求めてしまう気持ちが心の奥底にある。全てが順調で何の不安も不満もなく、周囲の人々と皆仲良く、トラブルも抱えてなく、もちろん…

バナナ以上に素直な生き方

『こんな夜更けにバナナかよ』は、筋ジストロフィーを抱える鹿野靖明氏の生活を取材したノンフィクション作品の本である。ボランティアとの交流や自立生活の実態が詳細に描かれた作品として評価され、映画化もされたのでご存知の方も多いだろう。おいらも何…

映えはつらいよ

今日は前回の記事の後日談をグルメ旅ブログ風にお伝えしたい。 前回、数年間使っていなかったミニベロ自転車を蘇らせるため、”次天気の良い休日が来たら、南の島らしい海岸線沿いの道をサイクリングするつもりである。”と書いた。 残念ながらこの3連休はず…

増え続ける喪失感

年々心臓が弱り体力が落ちていくとともに、使われなくなってしまったものがいくつもある。それらは家の片隅にあちこちに置かれており、一日の生活の中で何度も視界に入ってくる。普段はそれでも特に気にならないが、ふとしたときにそれがよく使われていた頃…

体と心のフェノロジー

まだ年も明けていないというのに、連日の寒さに堪えて春が待ち遠しい。春の訪れは日照が長くなったり気温が暖かくなることでも感じられるが、それだけではたまたま暖かい日である可能性もあり十分確信できない。真に春が来たと思えるのは、植物たちが新たな…

寒気の正体

ここ最近、変な寒気が続いている。ブルブルと震えるわけではないが一日中ゾワゾワと体の内部から寒気がくる感じがある。風邪の引き始めのようなゾクゾクした寒気にも近い。だが実際寒いのかというと、必ずしもそうでない時もあり、手足はむしろ暑かったり、…

正解のない生き方

前回のブログで、学会のシンポジウムで講演することになったと書いた。今日はその講演内容を講演前に一足先に公開してしまおう。というわけで今回の話は、心臓や病気のこととは関係のないゴリゴリの生物学の話である。 おいらは今から15年ほど前、鹿と大仏で…

風前の研究者

おいらは、研究者業界の中ではもはや忘れ去られた存在である。ここ数年、学会発表も論文発表もろくにしておらず、他の研究者と共同研究したり交流することもほぼなくなった。一応大学の研究室で研究員として働いているが、おいらの仕事は研究室マネージメン…

不整脈との共存

先日心房粗動が再発し、電気ショックで止めた。7月末にアブレーションを受けてからわずか2ヶ月半での不整脈再発であった。今のところアブレーションで焼ききれていなかった所から発生したのか、あるいは全く新しい部位から発生したのかはわからないが、何れ…

総合的俯瞰的包括的網羅的な期待

日本学術会議の会員に推薦された候補者のうち、6名が菅総理に任命拒否されたことについて波紋が広がっている。今日は、研究者の底辺にいるおいらにとっては正直雲の上の遠い世界のようなこの問題について考えてみたい。以下に書いたことは学術会議側、総理側…

フォンタン術後の単心室小児患者におけるCOVID-19の症例

新型コロナ感染症が世界中に拡大し半年以上が経過した。当初から、心疾患を持つ患者はコロナ感染症による重症化や死亡リスクが高いと言われてきたが、特に先天性心疾患の患者についてはどのくらいそのリスクが高いのかは全くわかっていなかった。感染拡大か…

フォンタン料理の極意

随分と大胆なタイトルだが、今日は最近2週間においらが料理して食べたものを紹介しながら、フォンタン患者の食事事情についてお話ししたい。 まず前提として、先天性心疾患を持つ人のほとんどは、程度に差はあれど食事に何らかの制限が掛かっている。塩分と…

これだけはお前らに約束する。

先日、何年かぶりに旧友二人からメールをいただいた。それぞれの近況を話してくれて、おいらも自分の近況を話し、久しぶりの会話にとても嬉しかった。その二人のメールとは別においらに朗報のメールが届いた。投稿していた論文が雑誌に掲載される見込みとな…

なおざりな差別

先日、首相が辞任を表明した。持病が悪化し職務を全うできないというのが主な理由だった。これに対してある野党の議員が「大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物」という明らかな差別的発言をして、強い批判にさらされている。おいらも障害を持…

痛みの緩和術

今回は、おいらはこれまでの闘病経験で、痛み、苦しみ、辛さからなんとか逃れようとした時に実践したことを紹介したい。これはある程度病気で痛い思いや辛い思いをされた方であれば、おそらく誰しもが似た経験をされていると思うので特に目新しいことではな…

小児が性に合う:心外導管穿刺法アブレーション入院後編

アブレーション入院の続きを書こう。アブレーションの翌日、朝9時に主治医の先生が来て、すぐに脚の付け根に何重にも貼ったテープを剥がしてくれた。テープを剥がす時は予想通りかなり痛かったが、途中から自分でやらせてもらえたため比較的楽にはがせた。テ…

二箇所から吹き出す血の池地獄:心外導管穿刺法アブレーション入院前編

アブレーション入院から退院した。日曜日から日曜日までの丸一週間の入院だった。それぞれの日に起こったことを記録のために記し、最後に感想的なものを書いておく。 入院初日。担当医は現在の小児循環の主治医と、もう一人やはり小児循環の若い先生だった。…

アブレーションであぶねえ小便

明日からカテーテルアブレーションを受けるため入院する。期間はわからないが、問題が起きなければ1週間くらいであろう。以前にも書いたように、過去に受けたアブレーションでは長時間の激痛を伴ったため、今回もそうならないかという不安で頭が一杯になる程…

男はつらいよーポテトサラダ記念日

7月に入り、気持ちが落ち込んでいる。以前のように日々の暮らしの中に喜びをあまり感じることができず、毎日時間が過ぎるのを待つように過ごしてしまっている。もしかしたら鬱なのだろうかと、ネット上のうつ診断チェックを片っ端からやってみると、予想通り…

穿刺で戦死

今年の上半期は、ここ3年ほどの中でも特に心臓の調子が悪い半年となってしまった。1月にはカテーテル検査中に心室細動を起こし、死ぬかと思うほどの苦しみを味わった。その後も心房細動や心房粗動が月に2、3回おき、その度に電気ショックを受けた。さらにペ…

どんな抗生物質や修行も効かないことがある

数週間前から虫歯の治療を始めた。正確には、初診は歯や歯茎の状態のチェックで、2回目、3回目は歯石や沈着汚れを掃除をしてもらい、治療が始まったのは4回目だった。先天性心疾患業界ではもやは常識となっているが(そもそもそんな業界があるかは置いておい…

父の休日

世間では今日は父の日で、家でご馳走を食べたり、家族からプレゼントや感謝の言葉をもらったり、といったお父さん方もいたかもしれない。しかし、おいらには全く無縁のごく普通の休日だった。父の日を意識したわけではないが、朝息子に今日はどこか出かけよ…

20gに託された命

ペースメーカー(PM)が突然止まったら、おいらは一体どうなるのか。それは、5年前にPMを埋め込んだ時から、怖いもの見たさのような好奇心として、おいらの頭の片隅にずっと潜んでいた。図らずもその好奇心は満たされることになった。この1ヶ月半ほど、おいら…