ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

死までの近さ

志村けんのコロナウイルス肺炎による急死によって、死が他人事ではなく急激に身近に感じた人も多いだろう。自分のよく知っている人、好きな人、身近な人が亡くなってしまうということが現実に起きたのだ。もしかすると、もっと身近な人あるいは自分自身にも…

スーパー患者

世間では、神の手と呼ばれる圧倒的な医療技術を持ち、不可能と思われる手術を次々と成功させていく医者を、スーパードクターと呼んで崇拝している。スーパードクターの元には、世界中から難病を患った多くの患者がすがる思いで訪ねてくる。それだけに手術が…

ファルコンに乗りたい

虚無感に満ちた長い3連休がようやく終わろうとしている。最初にお断りしておくと、以下に書くことは、おいらのしょうもない嘆きや愚痴であり、気持ちの整理ができないまま連休が終わろうとしているため、自分自身の記録のために書いておくことにしたものであ…

クリームシチューの進化学

我が家では、中1の息子の定番料理となったクリームシチュー。前回作ってから約2ヶ月が経ち、再び作ってもらった。息子のクリームシチューが登場するのは、大体おいらの疲れが溜まっていて寒い日である。この数日もその条件に当てはまり、南の島にしては最高…

多様性という試練

人類は、これまで生物が生み出す多様性に散々悩まされてきた。あえて強引に言ってしまうならば、人類史上に起きた様々な問題は、いずれも多様性が発端になっていると言えなくもない。例えば、おいら達が抱えている先天性心疾患という病気。もし、全ての人間…

大規模データの分析でわかった現代の成人先天性心疾患患者の生存の見通しと死因

前回の記事では、先天性心疾患患者へのウイルス感染症の脅威についてはわからないと述べた。しかし、わからないと言ってそのまま調べずにいるのは、3流研究者とはいえ研究者の名が廃るので、この連休を使って文献を調べてみることにした。今日はその成果を紹…

先天性心疾患者にとって新型ウイルスはどれほど脅威なのか

随分と大げさなタイトルだが、結論から言うとわからないというのが今回の話である。現在、世界中で拡散している新型コロナウイルス。ニュースなどで報じられている話では、基礎疾患がある人、心不全がある人などは感染した場合重症化するリスクが高く、特に…

ペースメーカーの夜明け:心室細動入院エピローグ

前編と後編では書けなかった、心室細動に至った原因や心房細動が頻発した原因、そして今後の治療方針について、記録のために書き記しておこう。 医者の説明によると、心室細動が発生した原因として最も考えられるものは、低カリウム血症であった。緊急入院し…

泣く勇気:心室細動入院後編

ICUに移ってから、当初の2日間の滞在という説明とは異なり3日目に突入していた。ICUでの生活は、気が狂いそうなほど口が乾き、鼠蹊部に刺さったシースのためにほとんど身動きが取れず、騒音と光で一睡もできない状況を耐え続けなければいけなかった。あまり…

我を失った心と心臓:心室細動入院前編

先日10日間ほど緊急入院した。それは過去に経験したことがない種類の苦しみを味わい、死を強く意識した入院になった。少し長くなるが、その詳細を記録しておこう。 年明け早々から体調はすぐれなかった。心房細動が発生し病院で電気ショックを受け一度は止め…

息子いれば憂いなし

年明けから息子と二人暮らしをしている。妻は、昨年同様冬の期間は友人の観光業を手伝いに、本土の山間部に長期滞在しに行った。昨年までは息子はスキー留学のため、妻と一緒に行っていた。しかし、息子は中学に入るとスキーへの情熱が冷めてしまい、今年は…

フォンタン循環における肝臓および腎臓の末端器官障害

新年早々、再びフォンタン術後の肝機能障害についての研究を紹介する。この論文では腎機能障害についても詳しく分析している。 ーーーーーーーーーーーーーー Wilson, TG. et al. (2018) Hepatic and renal end-organ damage in the Fontan circulation: A r…

心臓と脳の心

昨年末は生きがいや希望を見失いかけ、どうしたらよいかわからなくなり、姉や知り合いに相談してみた。姉からは慰められるどころか、「つまらなさを誰かのせいにしているうちは愉しくならない。なにがつまらないか、どうしたら面白いかを考えなさい!」と、…

フォンタン術後のタンパク漏出性胃腸症患者における臨床成果と生存率の改善

今年最後の記事は、少し明るい報告の論文を紹介して終わりたい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー John, AS. et al. (2014). Clinical outcomes and improved survival in patients with protein-losing enteropathy after the Font…

May the Fontan be with you

クリスマスも終わり、今年もあとわずかとなった。今年は正直暗い年だった。おいら個人的な面では、不整脈がたびたび発生し体調が安定せず、研究職の夢を諦めかけ、科学雑誌に投稿した論文は雑誌編集者から聞いたことがない理不尽な扱いを受け、職場はブラッ…

今後のラインナップ その後

年末になるとその一年を振り返りたくなる。以前、「今後のラインナップ」というタイトルの記事で、今後書きたいテーマやリクエストをいただいたテーマについてまとめた。「今後のラインナップ」は、予想外に反響がありたくさんのコメントをいただくことがで…

ハイゼントラ vs サムスカ

今日は2週に一度のハイゼントラの日。今回もハイゼントラを点滴している1時間の間に、記事を書いてみよう。テーマは、以前書こうとしてやめたハイゼントラとサムスカの対決の話である。まずその二つの薬の特徴を紹介しよう。 ハイゼントラは、患者自身が在宅…

血の証明

最近、暗いネガティブ思考の話が続いてしまっている。そんな話は誰も聞きたくないし、おいら自身ますます気が滅入るばかりだ。それにこのブログの本来の目的は、闘病体験を面白おかしく書くことでもあった。そして病気を持つ生き方も捨てたもんじゃないぜと…

疲れない生き方は、むしろ疲れる。

先天性心疾患の性質上、おいらは物心つく前から無意識のうちに、なるべく疲れないように人付き合いを避けて生きてきたようなところがある。幼い頃は、大勢の友達とわあわあ騒いで遊ぶより、一人か二人の友達とひっそりと遊ぶ方が好きだった。たまに加減を忘…

もしもフォンタン患者が中華料理人になったら

すでに何度もお話ししたが、おいらはフォンタン術後症候群によって、様々な食事制限がかかっている。水分制限や塩分制限は当然ながら、脂肪や辛味も制限が必要である。これらのどれか一つでも怠って制限なく摂取すると、ほぼ確実に浮腫んだり息苦しくなった…

超高価な薬を自己負担なく飲んでいることの説明責任

明日は、2週に一度のハイゼントラ在宅点滴の日。以前のように、点滴を打ちながらライブでブログ記事を書こうと思っていた。前回は、点滴を打っている1時間内に書ききれなかったので、明日の記事はある程度ストーリーも思い描き、記事のタイトルも「ハイゼン…

フォンタン手術後の肝線維症は普遍的かつ、時間経過と共に重症化する。

前回に引き続き、フォンタン患者のうっ血性肝障害に関する論文を紹介したい。非常に衝撃的な内容のため、紹介しておきながら正直読むことをお勧めしない。でも、そのリスクを知ることは、今後の予防法や治療法について考える上でとても重要だとおいらは思う…

君の未来

君は何を感じているの。 力が入ってじっと動かない体は、硬直したようでもあり、何かを全身で感じているようだ。 君が感じているのは生き物の命かな。シロツメクサの匂いややわらかな草の手触りは、君の心を刺激しているね。それは生涯君を虜にするよ。命の…

メスでは泣かないが雌では泣く

子供の頃のおいらは、どんなに痛い思いをしてもほぼ泣くことはなかった。注射をされても、メスで切りつけられても、手術後に体に刺さったドレーンを引き抜かれたり抜糸をされたり手術創を消毒されても、泣かなかった。母親の話では、物心つく前の幼児の頃か…

フォンタンだるまの七転八起人生

このブログでは、おいらの先天性疾患を通じた様々な体験を記してきた。しかし、見ず知らずのおじさんの闘病記なんて、興味もないし退屈だし、とてもじゃないが読む気になれないだろう。そんな方のために、今回はこれまで書いてきた闘病記を極短くまとめたス…

フォンタン循環は、早期に重度の肝臓障害を引き起こす。

今回は、フォンタン循環の深刻な合併症の一つである肝障害について研究した論文を紹介したい。 Agnoletti, G., Ferraro, G., Bordese, R., et al. (2016). Fontan circulation causes early, severe liver damage. Should we offer patients a tailored stra…

生きる姿

先月の台風15号に続いて、再び巨大台風が関東圏に向かっている。特に甚大な被害が出て、今なおその傷が癒えていない千葉県は極めて危険な状況にあり、胸騒ぎがしてしまう。どうか何事もなく無事過ぎてほしい。せめておいらの方に向かってくれないかな。まっ…

静かな時間

入院しているときに、何気に大きなストレスになるのが音である。昼夜を問わず常にどこかで音がなっている。心電図モニターのピコピコ音やアラーム、ナースコールの呼び音、誰かの足跡や話声、いびき、うめき声。気になり始めると、人によっては気が狂いそう…

ラップを貼り付けた白樺のような足

おいらの身体の中で、一番人に見られたくない部分は足のスネである。胸の手術痕は、おいらにとっての勲章であり、できれば見せびらかしたいぐらいだ。身体中に常に無数にある内出血痕は、他人が見ると不気味がられるが、おいら自身は全然気にならない。いわ…

中性存在

今回は、成人男性患者の恥ずかしい悩みについて少し赤裸々にお話ししたい。 入院すると、身の周りの世話を看護師さんにしてもらう機会が多くなる。特に、手術後など寝たきりの状態になっているときは、衣服や下着の着替え、トイレ介助、体拭き、など全てをさ…