ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

映えはつらいよ

今日は前回の記事の後日談をグルメ旅ブログ風にお伝えしたい。

 前回、数年間使っていなかったミニベロ自転車を蘇らせるため、”次天気の良い休日が来たら、南の島らしい海岸線沿いの道をサイクリングするつもりである。”と書いた。

 残念ながらこの3連休はずっと曇りか雨の日が続き、晴れた時がわずかな合間にしかなかった。しかし、おいらは待ちきれず連休最終日にミニベロを車に積んで海岸線に向かってみた。

 やってきたのは、おいらの住むところから車で約50分ほどのところにある海中道路。その海中道路は島と島を結ぶ道路で、橋ではなく浅瀬の干潟を埋め立てて建設された(一部船舶の行き来ができるよう橋になっている)。そのため道路が海面に近く、左右に道路と同じ視線の高さで海が広がって見えるため、島随一の絶景スポットにもなっている。道路の途中には駐車場が広々と整備されており、そこには海岸に沿って遊歩道もあり、海面をじっくりと眺めながら散歩したりサイクリングすることもできる。南の島に来て初めてこの場所を訪れたとき、あまりの美しさに一目惚れしてそれ以来綺麗な海が見たくなったらいつもこの場所に来ている。

 目的の場所に到着すると早速自転車を出して、折りたたみ式のため組み立てた。それを海岸沿いの遊歩道に置いてスマホで写真を撮ってみると、想像以上に良い。

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 曇りという天気を差し引いても、映えまくりと言っても言い過ぎじゃない。むしろ曇りであることで、ぽつんとたたずむ自転車の物悲しさのような雰囲気が引き立ち、より印象的な情景になった気がする。おいらは興奮して、たまにすれ違う歩行者も気にせずいろいろな角度から自転車を撮りまくった。

 ようやく満足して気持ちが落ち着いたところで、肝心のサイクリングである。おいらは自転車に跨いで撮影地点から100mほど離れた海中道路の途中にある道の駅に向かった。そこはお土産が売られていたりちょっとした飲食ができるようになっている。オイラのお目当ては新鮮なもずく酢のパック売りである。それを一つ買い、元の撮影地点の近くのベンチでランチにすることにした。

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 今日のランチは、途中で調達した月桃の葉で包まれたチマキと餅(南の島の言葉でムーチーと呼ぶ)、それに先程のもずく酢である。

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 チマキは島の特産品である田芋(里芋みたいな食感)が入っていてもっちりとして少し甘みがある。月桃の葉は独特な強い香りがし、あえて言うなら古いお寺の線香のような匂いに近いかもしれない。でもそれがまたとても良い香りで、チマキやムーチーにとても合うのである。ムーチーはヨモギ(島ではフーチバーという)が練り込んであり中に粒餡が入っていて、とてもやわらかいけど粘り気が強く食べ応えがある。どちらも添加物一切なしで食材と基本的調味料だけで作られた優しい味だ。そしてもずく酢は、この時期は旬ではなくおそらく冷凍ものにもかかわらず、シャキシャキとしてとても歯触りがよい。どれも何度も食べているのに感動的に美味しく、我ながら完璧なお出かけプランに大満足な1日となった。

 

 とここまでが、表向き映え映えなグルメ旅ブログであるが、その裏の実態は全く違っていた。実際は、曇りで風が強く小雨も混じっていたためものすごく寒く、手はかじかみ、鼻水は出て、トイレも近くなり、全く風景や自転車を楽しむどころではなかった。それに寒くて手に力が入らないため、自転車の組み立てや片付けに手こずり、挟んだり足にぶつけたりと痛い思いもした。そして自転車を漕いだ時は、2、3こぎですぐに腿の筋肉が痛くなり、筋肉が衰えている現実を思い知らされた。ランチをする時も、写真を撮ったり寒さで震えたり風でゴミが飛ばされないようにしたりと、ゆっくり味わっていられるゆとりはなかった。結局一番満足した瞬間は、全ての片付けを終え車の中でポットに入れてきた温かいお茶をすすっている時であった。

 きっと巷に溢れる映え写真も、実際は今回のおいらと同じようにいうほど”いいね”なことではなく、裏では辛い思いや痛い思いをしながら無理やり映え写真を撮っているに違いない。と帰りの車で僻みながら、映え写真など自分に不釣り合いなことはもうしないと心に誓った。