ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

再手術

縦隔炎入院②:フォンタン循環で静脈経由ペースメーカー設置は可能か

長い間保留にしていた2度目の縦隔炎入院についてお話したい。 入院は5月下旬から始まった。入院当初の計画から手術は最低3回を予定した。今回クリアしなければいけない課題は、①縦隔炎の感染部分を除去して徹底的に洗浄し、できるだけ菌の総量を減らすこと…

一つの物語が終わり、一つの物語を書く

前回の記事から、3ヶ月が過ぎた。その間何をしていたかと言うと、前回の記事の最後に書いたように縦隔炎が再燃したため、5月下旬から7月中まで2ヶ月弱入院していた。入院中や退院後は、記事を書く時間はたくさんあったが、精神的・肉体的ゆとりがなく書…

20gに託された命

ペースメーカー(PM)が突然止まったら、おいらは一体どうなるのか。それは、5年前にPMを埋め込んだ時から、怖いもの見たさのような好奇心として、おいらの頭の片隅にずっと潜んでいた。図らずもその好奇心は満たされることになった。この1ヶ月半ほど、おいら…

身体の幸せと心の幸せには50°Cの差がある。

おいらの住む南の島は梅雨の中休みに入り、この数日は日中30°C前後になるようになった。30°Cとなれば、一般的には汗ばんで暑さが鬱陶しい陽気だが、おいらにとってはすこぶる心地よい。もちろん、おいらにとっても30°Cは暑い。でも、寒さで体調を崩す心配が…

VAC to the future

少し古い話だが5年前のTCPCフォンタン転換手術の時について、再び思い出話をしたい。 これまでに術前から一般病棟までの過程は以下の記事でお話しした。 入院前:避けられない手術 入院後手術まで:人工心肺、結構心配 手術の状況:血の海を渡ると地獄 手術…

輝く人々

平昌オリンピックが開幕した。競技をしているどの選手も輝いて見える。この日のために人生の全てをつぎ込んできたかのように、全力で競技に立ち向かっていた。それだけに負けた時の悔しさも、勝った時の歓びも、想像を絶する感覚なのだろう。そのような超越…

研究材料になる研究者

おいらの症例は、これまでに少なくとも2回医学系の学会で発表されているようだ。そのどちらも、フォンタン再手術を受けた病院の医師による発表である。研究のデータとして使う際には、事前に同意書の記入を求められる。おいらも研究者の端くれだから、おいら…

3%で変わる生き方

フォンタン再手術後から、おいらのサチュレーションの値が少し下がっているのがずっと気になっていた。手術前は96%ほどだったが、手術後は93%ほどしかいかなかった。先日、今診てもらっている医者にそのことを聞いたところ、ようやくそのメカニズムがわか…

水と緑の豊かな病室

すっかり間が空いてしまったが、また2年前の再手術の時の話に戻ろう。前回までのおさらいをすると、手術を終え、やっと一般病棟に戻ってきたところだった。 一般病棟はともかく明るい。眩しいほどに陽の光が差し込んでくる。窓を開けると生暖かい風があたり…

古傷

数々の手術、検査を繰り返してきたおいらの体には、たくさんの傷跡が残っている。一番大きいのは、胸にある開胸手術の手術痕で、胸の真ん中と右脇にT字のような配置でそれぞれ20cmほどのものがある。真ん中の傷は過去に3回開けており、3歳、12歳、39歳の時に…

ICUは命のゆりかご

約一月ぶりになるが、再手術の話を再開しよう。前回までに2度の手術を終え、ICUで目が覚めてから3日目になったところまでお話しした。そして3日目。いよいよICUが出られることになりそうだった。ほとんどの医療ドラマでは、ICUの生活が描かれることはない…

永遠に続く砂漠

また、再手術の話を再開しよう。 2度目の手術を終え、目がさめると朝だった。もちろん朝だとわかるのは後々のことで、実際はICUでは窓もなく時間の感覚もない。しかし、時間の感覚がないことは実は患者にとってかなりストレスになる。後日記録を見ると、午…

天国から生き返る果実

しばらく、暗い話が続いてしまったので、今日は大好きな果物の話をしよう。おいらの住んでいる南の島では、今パッションフルーツが旬である。スーパーなどで一つ100円くらいで売られている。中を開くと、黄色い果汁とカエルの卵を思わせる黒い種子がたくさん…

血の海を渡ると地獄

また、フォンタン再手術の話を再開しよう。 術前の説明では、手術時間は12時間と予定された。一番時間がかかるのは、心臓に到達する前に心臓と胸骨の癒着をはがすことである。過去に心臓手術を受けたことのある人は、心臓が周囲の組織と癒着していることがよ…

人工心肺、結構心配

手術の6日前に入院が始まった。入院するとすぐに、レントゲン、心電図、CT、採血、エコー、肺機能検査と、休む暇なく検査を受けた。さらに、その頃はPLEが再発していたため血中タンパクがかなり低く、点滴でアルブミンとグロブリンの補充も受けた。タンパク…

奇跡は終焉させない。

TCPC conversionを受けた人は日本にどのくらいいるのだろうか。はっきりした数はわからないが、おいらが子供の時に手術を受け、おそらく日本で最もフォンタン手術の実施数が多いTJ病院では、70例あるようだ。このほかに、やはり先天性心疾患の手術実績の多い…

避けられない手術

そろそろ、また過去の話をしよう。今から約2年ほど前のフォンタン再手術(TCPC conversion)のことだ。手術直後の状態は以前書いたが、その時の入院の全貌を、これから何回かに分けてお話ししたい。 おいらが再手術を受けるに至った経緯は、4年半前にさかの…

ひとりじゃない

目覚めると、視界ははっきりしなかった。見える物は全てがぼやけ、光のスジが何本も見えた。徐々に感覚が戻ってくるにつれ自分の置かれた状況がわかってきた。口には呼吸器が入り、しゃべることもできない。ベッドの上に寝ているのはわかるが、全身ほとんど…

大人になる心臓

先天性心疾患を持って生まれた子供たちは、自分がどんな病気なのかをわからない。わけのわからないまま、検査入院手術を繰り返し、生き残ったものたちが成人になっていく。その間、病気のことは親が必死に調べたりしている。当の本人は気楽なもので、病名す…