ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

フォンタン

フォンタン術後の単心室小児患者におけるCOVID-19の症例

新型コロナ感染症が世界中に拡大し半年以上が経過した。当初から、心疾患を持つ患者はコロナ感染症による重症化や死亡リスクが高いと言われてきたが、特に先天性心疾患の患者についてはどのくらいそのリスクが高いのかは全くわかっていなかった。感染拡大か…

穿刺で戦死

今年の上半期は、ここ3年ほどの中でも特に心臓の調子が悪い半年となってしまった。1月にはカテーテル検査中に心室細動を起こし、死ぬかと思うほどの苦しみを味わった。その後も心房細動や心房粗動が月に2、3回おき、その度に電気ショックを受けた。さらにペ…

フォンタン循環における肝臓および腎臓の末端器官障害

新年早々、再びフォンタン術後の肝機能障害についての研究を紹介する。この論文では腎機能障害についても詳しく分析している。 ーーーーーーーーーーーーーー Wilson, TG. et al. (2018) Hepatic and renal end-organ damage in the Fontan circulation: A r…

フォンタン術後のタンパク漏出性胃腸症患者における臨床成果と生存率の改善

今年最後の記事は、少し明るい報告の論文を紹介して終わりたい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー John, AS. et al. (2014). Clinical outcomes and improved survival in patients with protein-losing enteropathy after the Font…

フォンタン手術後の肝線維症は普遍的かつ、時間経過と共に重症化する。

前回に引き続き、フォンタン患者のうっ血性肝障害に関する論文を紹介したい。非常に衝撃的な内容のため、紹介しておきながら正直読むことをお勧めしない。でも、そのリスクを知ることは、今後の予防法や治療法について考える上でとても重要だとおいらは思う…

フォンタンだるまの七転八起人生

このブログでは、おいらの先天性疾患を通じた様々な体験を記してきた。しかし、見ず知らずのおじさんの闘病記なんて、興味もないし退屈だし、とてもじゃないが読む気になれないだろう。そんな方のために、今回はこれまで書いてきた闘病記を極短くまとめたス…

フォンタン循環は、早期に重度の肝臓障害を引き起こす。

今回は、フォンタン循環の深刻な合併症の一つである肝障害について研究した論文を紹介したい。 Agnoletti, G., Ferraro, G., Bordese, R., et al. (2016). Fontan circulation causes early, severe liver damage. Should we offer patients a tailored stra…

ハイゼントラの休日

今日は、2週に一度のハイゼントラ点滴の日。今まさに、お腹に針を刺して始めたところだ。点滴は一回一時間ほどかかる。今回は、その間に一つの記事を書き終えられるか挑戦してみよう。 現在の時刻は3時半。日曜の昼間に点滴だなんて、時間がもったいなく思…

我が子は幸せな人生を送れるだろうか?ーフォンタン循環の子供を持つ親の心配に関する研究

随分と重いタイトルの論文を見つけたので紹介したい。 du Plessis, K., Peters, R., King, I., Robertson, K., Mackley, J., Maree, R., … D’Udekem, Y. (2018). “Will she live a long happy life?” Parents’ concerns for their children with Fontan circ…

フォンタンの未来

先日、フォンタン患者とその家族それに全国から集まった小児循環器医が参加したフォンタンのセミナーがあり、おいらは患者の一人として体験談を語ることになった。おいらは、今住んでいる南の島の中ではフォンタン患者として最高齢らしいが、それは別に偉い…

スリルなネイル

先天性心疾患の患者で特にチアノーゼの症状を持つ人は、共通してばち指と呼ばれる指の変形が見られる。ばち指は、手足の指の先がカエルのように膨らみ、爪は丸くなる。これは血流が悪いために指の先端がうっ血し、膨らんでいくために起こる。さらに、チアノ…

TCPCフォンタンにおける遠隔期障害と死亡の関係

前回と似た別の論文を見つけたので紹介したい。 Kotani, Y et al. 2018. Fontan failure and death in contemporary fontan circulation: analysis from the last two decades. The Annals of thoracic surgery 105: 1240-1247. トロント小児病院で、1985年…

単一の病院における心外導管型フォンタン術患者500人の予後

久しぶりに論文紹介をしよう。それほど目新しい研究内容ではないが、日本国内の病院がこれほど多数のフォンタン患者を追跡調査した研究成果は珍しい。 Nakano, T et al. 2015. Results of extracardiac conduit total cavopulmonary connection in 500 patie…

崩壊後の時代

平成元年、おいらは最初のフォンタン手術を受けた。術後は、動脈と静脈が綺麗に分けられ、酸素をたっぷり含んだ動脈血が全身にくまなく行き渡るようになった。溢れるほどの酸素に、体は最初戸惑いを隠せず拒絶的反応すら見せた。だがやがて、その豊富な酸素…

インクレディブル・ファミリー

今から約30年前の12歳の時、おいらはAPCフォンタン手術を受けた。その時の入院の状況を両親が記録して1冊のファイルにまとめて残していた。ファイルには記録だけでなく、当時のクラスの同級生からいただいた手紙も保存されていた。どの手紙にも、おいらが手…

静と動

おいらの心臓は、生まれた時は静脈と動脈が混ざり合っていた。そのため、常に顔色は悪く、唇や爪は紫色、ちょっとした運動でも酸欠状態になり苦しかった。フォンタン手術を受け、その苦しみから解放された。静脈と動脈は混ざり合わなくなり、顔も唇も爪も血…

フォンタンマスターへの道:筋肉編

フォンタンマスターは筋肉という最強の右腕を従えている。それは決してスポーツ選手のように力強い筋肉ではないが、心臓を強力にサポートし、弱い心臓を健常者並みの働きに高めてくれる頼もしい存在である。 筋肉なきところ、水溜まるなり。大昔の思想家の言…

フォンタン子の生き方

とてもありがたいことに、今後のラインナップを載せて以来、多くの方々からコメントやリクエストをいただいた。今後いただいたリクエストには時間はかかっても一つ一つお話ししていきたいと思う。しかし、今回はリクエストにないことを書いてしまう。なんと…

フォンタンの暗黒面

おいらはまだフォンタンマスターへの修行が足りないようだ。初めて聞いた方のために、フォンタンマスターとは何か改めて説明すると、フォンタン循環を持ちながら、その体に最適な生活スタイルを会得して、長期間入院などをせずに体調を安定できる達人のこと…

フォンタンマスターへの道:水編

先天性心疾患者にとって、体内の水分量コントロールは極めて重要な課題だ。多過ぎれば、体が浮腫むだけでなく血液量が増えて心臓に大きな負担がかかる。しかし、少なければ脱水や血栓のリスクが高まる。この点は、フォンタン患者には、特に難題である。フォ…

偶然の予兆

この数日、政治に関わる衝撃的疑惑が次々報道されている。もしかすると、長く人々の心に残る歴史的な政治事件になるかもしれない。この事件のように、おいらがこれまでの人生でリアルタイムで目撃あるいは体験した衝撃的なニュースを思い出していくと、ふと…

Death is a natural part of life

「死は生きることの一部だ」。映画スターウォーズで、ジェダイマスターのヨーダが言った名言である。800年以上生き続けジェダイの頂点に立つヨーダが言うと、確かにとても深みのある言葉に感じる。がしかし、先天性心疾患者にとっては当たり前な感覚である。…

研究材料になる研究者

おいらの症例は、これまでに少なくとも2回医学系の学会で発表されているようだ。そのどちらも、フォンタン再手術を受けた病院の医師による発表である。研究のデータとして使う際には、事前に同意書の記入を求められる。おいらも研究者の端くれだから、おいら…

最大の喜び

両親が、おいらのことで一番喜んだ時のことは、今でも強く心に残っている。それは、心臓の手術を無事終えた時、ではない。もちろんその時も喜んだと思うが、喜びより安堵感の方が大きかったろう。それに、おいら自身は手術後すぐは眠っているか意識が朦朧と…

APCフォンタン術患者の30年後の運命

まさに自分が該当する興味深い論文を見つけたので紹介したい。 Chin Leng Poh et al. (2017) Three decades later: The fate of the population of patients who underwent the Atriopulmonary Fontan procedure. International Journal of Cardiology 231:9…

すりすりりんご

たまには子供の頃の話をしよう。先天性心疾患を持って生まれると、激しい運動ができないとか、ちょっとしたことで息切れするとか日常の不便だけではなく、些細な病気にもなりやすい。だから子供の頃は、よく風邪などで学校を休むことが多かった。特に多かっ…

3%で変わる生き方

フォンタン再手術後から、おいらのサチュレーションの値が少し下がっているのがずっと気になっていた。手術前は96%ほどだったが、手術後は93%ほどしかいかなかった。先日、今診てもらっている医者にそのことを聞いたところ、ようやくそのメカニズムがわか…

水と緑の豊かな病室

すっかり間が空いてしまったが、また2年前の再手術の時の話に戻ろう。前回までのおさらいをすると、手術を終え、やっと一般病棟に戻ってきたところだった。 一般病棟はともかく明るい。眩しいほどに陽の光が差し込んでくる。窓を開けると生暖かい風があたり…

渋滞が渋滞を引き起こす

おいらの住む南の島では、至る所で渋滞が発生している。その原因は、車の台数が多すぎるためだそうだ。県民一人にほぼ一台の割合で持っているらしい。さらに、暑い気候のため、ちょっと出かけるにも車を利用するのが習慣になっているせいもある。渋滞を避け…

永遠に続く砂漠

また、再手術の話を再開しよう。 2度目の手術を終え、目がさめると朝だった。もちろん朝だとわかるのは後々のことで、実際はICUでは窓もなく時間の感覚もない。しかし、時間の感覚がないことは実は患者にとってかなりストレスになる。後日記録を見ると、午…