ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

フォンタン手術後の肝線維症は普遍的かつ、時間経過と共に重症化する。

前回に引き続き、フォンタン患者のうっ血性肝障害に関する論文を紹介したい。非常に衝撃的な内容のため、紹介しておきながら正直読むことをお勧めしない。でも、そのリスクを知ることは、今後の予防法や治療法について考える上でとても重要だとおいらは思う。

 

Goldberg, D.J. et al. (2017) Hepatic fibrosis is universal following fontan operation, and severity is associated with time from surgery: A liver biopsy and hemodynamic study. Journal of the American Heart Association 6: e004809.

 

背景:うっ血性肝障害はフォンタン術の合併症の一つであるが、その発症率と危険因子に関するデータが不足している。

方法:平均年齢17.3±4.5歳の患者67名(フォンタン術後平均14.9±4.5年)に対し、肝生検と心臓カテーテル検査が行われた。肝線維化は、コラーゲン沈着の程度(%:生検を染色して測る)で定量化した。被験者の生検は、健常な対照群からの染色標本と比較した。患者の特徴、心エコー検査所見、および血行動態測定を危険因子として分析した。

結果:沈着の程度は、対照の2.6%に対しフォンタン患者21.6%と著しく高かった。フォンタン術後の経過時間と沈着の程度との間には、有意な相関(r = 0.33)が見られたが、血清肝臓酵素、血小板数、下大静脈圧は相関しなかった。また、心室の形態(左室型か右室型か)や房室弁不全の重症度も、沈着の程度に差はなかった。

結論:これらの結果は、肝線維症がフォンタン循環にとって普遍的特徴であり、線維化の重症度が時間とともに増加することを示している。

 

おいらの解釈と感想

極めてシンプルな結果と結論で、それゆえになおさら結果が衝撃的であった。フォンタン患者はうっ血性肝障害が避けられないと言わんばかりの論文である。確かに、肝臓はその構造と性質上、フォンタン循環に伴う静脈圧の上昇に対して極めて脆弱な臓器と言える。肝臓には、胃や腸などの消化器官からの静脈血が門脈を通して直接流れ込んでくる。だから静脈圧が高くなれば、必然的に肝臓にもその負担が掛かってしまう。

 とはいえ、この論文の被験者はたった67名で、これをもって全てのフォンタン患者に当てはまる一般論になるとは言えない。フォンタン循環であっても静脈圧が上がらない患者もいるであろう。それにもし肝線維化しても、ほとんど無症状だそうだ。実際おいらも5年ほど前に肝線維化が発覚したが、今の所自覚症状はない。

 でも、そんな風に言い訳して見ぬふりをしていい訳がない。おいらはこれまで腹部エコーでしか線維化の状態を診ていないため、本当はこの論文のように肝生検を受けてより正確な診断を知る必要がある。頑張って肝生検受けようかな。でも、痛そうで怖いな。冒頭で、今後の予防法や治療法について考える上でとても重要だ、などと偉そうなこと言っておきながら、結局おいら自身が読んだことを後悔しているね。