ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

COVID-19と先天性心疾患:9人の子供の症例

今回は久しぶりに論文紹介をしたい。しかし、以下に紹介する論文は先天性心疾患の子供を持つ親御さんにとっては、不安が増すだけであまり知りたくない情報かもしれない。でもおいら個人の考えとして、たとえネガティブな情報であっても、それを知ることによって将来起こりうるリスクを未然に防げる可能性が高まると信じている。だからおいら自身は、自分の病気や将来についてなるべく具体的に詳しく教えてもらうよう常々主治医に尋ねている。とはいえ、知りたくないという意思も大切であり、以下の論文の解説を読むことは特にお勧めはしない。

 

Haji Esmaeil Memar, E., Pourakbari, B., Gorgi, M. et al. COVID-19 and congenital heart disease: a case series of nine children. World Journal of Pediatrics 17, 71–78 (2021).

 

背景: 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、現在ワクチンなどの効率的な治療法がない世界的流行中の感染症である。基礎疾患を持つ患者はより重篤な疾患および高い死亡率になりやすい。しかし、先天性心疾患(CHD)の小児におけるCOVID-19の症例についてはデータが限られている。この研究は、COVID-19を発症したCHDを持つ9人の子供の症例を報告する。

方法: 2020年3月と4月に新型コロナに感染してイランの子供医療センターに入院した先天性疾患の子供9名について調査した。生存した患者と死亡した患者の間で、臨床徴候と症状、CHDの種類、投与された薬を比較した。

結果: 9人の患者のうち2人が亡くなった。死亡した患者は、重度の先天性疾患(大動脈弁狭窄症と左心低形成症候群)、動脈血ガスの悪化、重度の臨床症状(呼吸困難、胸痛、頻呼吸、咳、嘔吐、筋肉痛)、部分トロンボプラスチン時間(PTT)とC反応性タンパク質(CRP)が高く、より多くの投薬が必要であった。

結論: 小児におけるCOVID-19の治療のガイドラインを決定するために、CHDの小児により大きな注意を払う必要がある。ただし症例は9例のみと少ないため、さらなる研究が必要である。

 

おいらの感想と解説

9名中2名が亡くなられたのは極めて死亡率が高い状況であり、コロナの恐ろしさを改めて感じた。とはいえ論文の結論で述べているように、症例数がまだ非常に少なく、この研究を一般論化してはいけない。また、この研究が行われたのは2020年の3,4月で、まだコロナについてほとんど何もわかっていない状況の中であった。現在はワクチンも完成し、より適切な治療法も確立しているだろう。だから現実はこの論文の報告ほど、死亡率は高くないと想像する。

 この研究で最も重要な情報と感じたのは、亡くなった患者に共通した呼吸困難、胸痛、頻呼吸という症状である。このことは、そうした重い呼吸症状がでた場合には特に注意が必要であることを意味する。さらに、コロナだけでなくインフルエンザやその他のウイルス性呼吸器疾患に対しても、共通して当てはめることができるだろう。もっと飛躍して言えば、何かの感染症にかかっているかわからなくても、もし重い呼吸症状が出た場合は迷わず病院に行ったほうがいいということだ。これは先天性心疾患の患者が病院に行くべきかどうかの判断基準として、有効ではないかと思うのである。