ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

偶然の予兆

 この数日、政治に関わる衝撃的疑惑が次々報道されている。もしかすると、長く人々の心に残る歴史的な政治事件になるかもしれない。この事件のように、おいらがこれまでの人生でリアルタイムで目撃あるいは体験した衝撃的なニュースを思い出していくと、ふと衝撃ニュースとおいらが受けたフォンタン手術にある恐ろしい繋がりが存在することに気づいたのだ。

 一つは、今から7年前の東日本大震災。あの日、おいらは東北の学会からちょうど東京駅に戻った時だった。駅構内にいるときに地震が起きた。まるで船底にいるかのような重たい大きな揺れで、それが逆に恐ろしかった。携帯のネットで調べると、東北の海岸全域に10m以上の津波予報が出されていた。胸が高鳴り、相当数の犠牲者が出ると瞬間的に感じた。事実は、おいらの想像をはるかに超え、絶望的な災害が起きていた。その頃のおいらはまだ体調が悪くなっておらず、その後フォンタン術後症候群で苦しめられるとは全く想像していなかった。しかし、震災から4年後、おいらはフォンタン転換手術を受けていた。

 もう一つ、深く記憶に残っているニュースは、1985年においらが入院している時に起きた日航ジャンボ墜落事故である。そのニュースは、夜病室のテレビで見ていた。中継のヘリが真っ暗な墜落現場付近を写すと、ところどころ炎の明かりが見えた。子供ながら胸が高鳴り、この時も相当数の犠牲者が出ていると瞬間的に感じた。この時の入院は肺動脈形成術を受けるためだったが、その後再び手術を受けることになるとは全く想像していなかった。しかし、それから4年後においらはAPCフォンタン手術を受けた。

 子供の頃のAPCフォンタン手術も、大人になってからのフォンタン転換手術も、どちらもその4年前に、胸が締めつけられる痛ましい事故や災害が起きていた。予兆と言うにはあまりに衝撃的すぎるが、フォンタン手術と運命的繋がりがあるかのようであった。

 もちろん実際は、全くの偶然である。ニュースもフォンタンもおいらの世界観を変えるほどの大きな出来事なだけに、何か運命めいた関係性を見出したくなるが、そんな関係は一切ない。現実には、阪神淡路大震災地下鉄サリン事件、アメリカ同時多発テロ福知山線脱線事故、など悲惨な事故・事件・災害は他にもたくさん起きた。それらもおいらの記憶に一生残る衝撃的なものである。フォンタン手術は、おいらにとってはそうした衝撃的な出来事とともに、生涯記憶に残るだろう。でもそれで良いのだ。たとえ辛い出来事でも、一生忘れないでおきたい。