ある生物学者の不可思議な心臓

ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命について考える。

不戦の誓い

今日は、おいらの住んでいる南の島の慰霊の日だった。おいらがこの島に移り住んでから2度目の日である。昨年のその日は、プールに入ってアイスを食べて、のん気に遊んでいた。今年は少しでもこの島の歴史を学ばなければと、近所の図書館で開催している写真展を見に行った。しかしながら、この日は公共機関がお休みで、せっかくのおいらの意気込みも出鼻をくじかれてしまった。でも内心ほっとする面もあった。子供の頃から、戦争の惨状を写した写真を見るのが、とてつもなく嫌だったからだ。黒焦げの死体や火傷や怪我で血まみれになった人々。子供の頃に見たそうした痛ましい写真は、今でもトラウマになっていた。あまりに恐ろしくて、時々夢でうなされることもあった。

 4月から始まった島の戦闘は、日本側の組織的抵抗が終わるこの日まで約3ヶ月続いた。最初から戦闘は劣勢であったろう。ひたすら追われ続け、その間多くの人々が傷つき亡くなっていった。誰しも負け戦とわかっており、初めから降伏すればそんなに多くの人々が亡くならずに済んだかも知れない。でも、もちろんそんな判断を当時の軍隊ができるはずがない。捨て駒とわかっていながらも、時間稼ぎのために戦わなければならなかった。

 現代に戻って、おいらもまた4月から苦しい戦いが続いている。新年度から仕事の内容や量が増え、精神的・身体的にかなり疲労が溜まってきている。この一ヶ月は体調がずっと不安定で、職場でぐったりと横になるときも度々あった。幸い職場はおいらの病気に配慮してくれて、しんどいときはソファーなどで休むことを許されていた。でも、そうしてなんとかしのいできたものの、このまま無謀な戦いを続けていては、いずれおいらの命が持たなくなる不安がある。

 73年前のこの島の戦闘のように、全てが破壊されボロボロになってからでは取り返しがつかない。73年前の人々の命を取り戻すことはできないが、せめて今ある命を大切にしたいと思う。