ある生物学者の不可思議な心臓

先天性心疾患をもつ生物学者が命についてつづるよ。

ICUは命のゆりかご

約一月ぶりになるが、再手術の話を再開しよう。前回までに2度の手術を終え、ICUで目が覚めてから3日目になったところまでお話しした。そして3日目。いよいよICUが出られることになりそうだった。ほとんどの医療ドラマでは、ICUの生活が描かれることはない…

旅は入院の始まり

子供の頃、手術入院の前にはご褒美として特別な旅行に連れて行ってもらえた。ある時はディズニーランドへある時はグアム旅行だった。入院前で気持ちは落ち込んでいたが、その時ばかりは入院のことを忘れ、無我夢中で楽しんだ。そのためそれらの旅行はとても…

安物買いの命失い

来週、九州へ旅行に行く予定を立てている。南の島に移り住んで以来、初めて島の外に出る旅になる。飛行機は、しばらく前に障害者との間でトラブルがあったLCCを使う予定である。正直、LCCは狭かったり、ターミナルも遠かったりと疲れが大きいので、できれば…

一番効く薬

おいらは、毎月1、2回検診で仕事を休んでいる。一般的な企業では病欠という休暇の制度がない。病気で休む時は、有給休暇を消化するか、減給覚悟で欠勤扱いになるしかない。そして今の職も、会社に雇用されているので、やはり病欠休暇というものがなかった…

渋滞が渋滞を引き起こす

おいらの住む南の島では、至る所で渋滞が発生している。その原因は、車の台数が多すぎるためだそうだ。県民一人にほぼ一台の割合で持っているらしい。さらに、暑い気候のため、ちょっと出かけるにも車を利用するのが習慣になっているせいもある。渋滞を避け…

永遠に続く砂漠

また、再手術の話を再開しよう。 2度目の手術を終え、目がさめると朝だった。もちろん朝だとわかるのは後々のことで、実際はICUでは窓もなく時間の感覚もない。しかし、時間の感覚がないことは実は患者にとってかなりストレスになる。後日記録を見ると、午…

天国から生き返る果実

しばらく、暗い話が続いてしまったので、今日は大好きな果物の話をしよう。おいらの住んでいる南の島では、今パッションフルーツが旬である。スーパーなどで一つ100円くらいで売られている。中を開くと、黄色い果汁とカエルの卵を思わせる黒い種子がたくさん…

入院もやむを得ぬ

先日、一ヶ月ぶりの定期検診があった。残念なことに血液検査の結果が思わしくなく、大幅に数値が悪くなっていた。血中タンパク量やヘモグロビンが下がっていたのだ。次回の検診でさらに悪くなっていたら、入院は避けられないかもしれない。今年に入ってから…

二度と繰り返してはいけない世界

おいらが住む南の島は、太平洋戦争時に最後の激戦地となったところだ。先日その慰霊の日があった。その日おいらは、息子と一緒に近くのプールに出かけた。その前日に梅雨明けしたばかりで、夏の始まりという暑い日だった。72年前もこの日に梅雨明けしたらし…

血の海を渡ると地獄

また、フォンタン再手術の話を再開しよう。 術前の説明では、手術時間は12時間と予定された。一番時間がかかるのは、心臓に到達する前に心臓と胸骨の癒着をはがすことである。過去に心臓手術を受けたことのある人は、心臓が周囲の組織と癒着していることがよ…

島に落ち着く。

実は、南の島に移住してすぐに、ある大学から公募の面接に呼ばれていた。テニュアトラックという任期なしの終身雇用につながる職だったので、もしこれが受かればよほどのことがない限り一生安泰である。しかし、新たな住居新しい職と、全てが始まったばかり…

我が生涯に一片の悔い無し

運命は残酷だ、とはまさにこんなことを言うのだろう。先日、知り合いが突然亡くなられた。その人も心臓ではないが重い病気を持っており、手術を受け、時々発作に見舞われていたという。予兆はなかったが、急に発作が起き亡くなられたとのことだった。まだ若…

人工心肺、結構心配

手術の6日前に入院が始まった。入院するとすぐに、レントゲン、心電図、CT、採血、エコー、肺機能検査と、休む暇なく検査を受けた。さらに、その頃はPLEが再発していたため血中タンパクがかなり低く、点滴でアルブミンとグロブリンの補充も受けた。タンパク…

希望も絶望も持たない

今から一年前の地獄入院から退院した直後。おいらはしゃがむことができず、床に座ることができなかった。電動式の介護ベッドに寝起きし、ベッドから体を起こす時は電動で上半身をあげる必要があった。腰椎圧迫骨折のためコルセットを体に巻き、痛みで寝返り…

艦砲ぬ喰ぇーぬくさー

かつてない猛烈な台風が南の島を上陸しようとしていた。その台風が来ることはだいぶ前からわかっていた。すでに太平洋のあちこちの島で同じ台風に襲われていたからだ。その島に来る直前も小笠原南方の硫黄島でやはり壊滅的被害を受けていた。島の周囲には、…

奇跡は終焉させない。

TCPC conversionを受けた人は日本にどのくらいいるのだろうか。はっきりした数はわからないが、おいらが子供の時に手術を受け、おそらく日本で最もフォンタン手術の実施数が多いTJ病院では、70例あるようだ。このほかに、やはり先天性心疾患の手術実績の多い…

避けられない手術

そろそろ、また過去の話をしよう。今から約2年ほど前のフォンタン再手術(TCPC conversion)のことだ。手術直後の状態は以前書いたが、その時の入院の全貌を、これから何回かに分けてお話ししたい。 おいらが再手術を受けるに至った経緯は、4年半前にさかの…

リゾート気分よりぞーっとする気分

南の島に移住してちょうど1ヶ月が過ぎた。とても長い1ヶ月だった。毎日の仕事に疲れ、早速5月病のような症状になり、しばらく憂鬱な気分で過ごした。ようやく最近慣れてきたところである。妻も慣れない土地で知り合いもおらず、精神的に辛そうだった。子供…

狭い殻でも広い浜がいい。

南の島に来てから、すでにいくつかのビーチを巡った。全てのビーチではないが、そのいくつかでオカヤドカリを見つけた。いるところにはたくさんいて、10匹以上簡単に見つかった。手のひらに乗せると、すぐに頭を出してモソモソと動き出した。あるものは、勢…

甘くないブーム

南の島に来て困ったことが起きている。飲む点滴甘酒がほとんど売っていないのだ。売っていたとしても非常に高い。とても気楽に買える代物ではない。しかし、甘酒がなくてはおいらの胃腸はいつまた出血し出すかわからない。なんとしても飲み続けたい。 おいら…

早すぎる五月病

仕事が始まってまだ一週間めだというのに、毎日すごく疲れる。いすにすわっていると、腰や背中がかなり痛くなった。午後になると帰りたくて仕方がなく、時間の流れがとても遅く感じられた。結局あまりに疲れるので、本来の5時過ぎまでいられず、4時半頃に…

青の世界

南の島だというのに、ここ数日意外と寒い。最高気温は20度にならない日が続いている。寒くなると途端においらの体調は悪くなる。寒気がしてだるく、少し頭痛や気持ち悪さがあり、胃腸も不快感が出てくる。体は重く、何もするにも息苦しい。温かい紅茶などを…

涙そうそう

南の島 OKNWにようやく降り立った。これから全く新しい生活が始まる。でもその期待と不安よりも、まだこれまでの生活の思い出や余韻が大きい。前の住所からの引越しは、場所が場所だけに10日間かかった。荷物を引っ越し業者に出してから南の島に着くまでに、…

心臓に毛を生やそう

4年ぶりに学会に参加して研究発表を行った。昨年と一昨年は、入院していたため参加できなかった。学会参加だけでなく、ここ数年おいらは闘病に精一杯で、論文も出せず、調査もできず、まともに研究活動をしていなかった。論文は科学雑誌に投稿するものの、…

怪しい雲行き

やはりデスゾーンの攻略は難しいのだろうか。二ヶ月前にプレドニンを8mg/日に減量してから、タンパクの値が下がり続けている。2月の検診の時も、そして先日の3月の検診の時も下がっていた。TP6.1、アルブミン3.7、IgG709になった。アルブミンは昨年の7月…

断捨離は心臓に悪い

南の島へ向けた引越準備を進めている。できるだけ荷物を減らそうと、思い切って本や過去の資料などを処分することにした。紙の資料はできるかぎりスキャナーで取り込んで電子化し、実物は廃棄した。おいらは、4年前からの第2の闘病時代からの血液検査の結果…

所信表明

今朝、ニュースで優生保護法についてやっていた。現在は廃止されているが、平成8年までは施行されていたそうで、特定の障害を持つ人に対し、本人の承諾なしに不妊手術を受けさせることができる法律だった。先天性心疾患は遺伝性は低いものの、一昔前だったら…

おのおの抜かりなく

おいらの就職活動が終わった。先週受けた遠方での面談で、正式に採用されることになったのだ。4月からフルタイムの研究職に復帰する。ちょうど昨年の今頃、おいらは地獄入院のさなかにあり、生きるか死ぬかをさまよっていたことを思うとまさに奇跡的なことで…

ひとりじゃない

目覚めると、視界ははっきりしなかった。見える物は全てがぼやけ、光のスジが何本も見えた。徐々に感覚が戻ってくるにつれ自分の置かれた状況がわかってきた。口には呼吸器が入り、しゃべることもできない。ベッドの上に寝ているのはわかるが、全身ほとんど…

フォンタン術後の長期死亡要因

昨年、フォンタン患者の長期予後に関する論文が新たに発表された。 Tarek Alsaied,Jouke P Bokma,Mark E Engel,Joey M Kuijpers,Samuel P Hanke,Liesl Zuhlke,Bin Zhang,Gruschen R Veldtman. 2017. Factors associated with long-term mortality after Font…

障害は自己PRになるか

ここ最近のおいらの主な活動は、就職活動である。つい先日も、筆記試験と面接を受けてきた。来週もまた、面接を受けに遠方へ赴く。就活では、おいらは病気のことを正直に打ち明けることが多い。応募書類に書いたり、面接のときにも話したりする。しかし、現…

デスゾーン

世界には、標高8000mを超える山が14ある。8000m以上の環境は、酸素濃度が地上の約3分の1となり、これまで多くの登山家が死亡してきたため、「デスゾーン」と呼ばれている。その死亡率は、多くの山で5%以上になっているそうである。デスゾーンを攻略し、意識…

入院最高!

この年末、サンタさんからファミコンが贈られてきた(息子に贈られたものだけど)。おいらの手元にファミコンが来るのは子供の頃と合わせてこれで2度目になる。おいらの子供時代1980年代はファミコン全盛期だった。しかし、ファミコンは当時は高く、おいらの…

体調、神ってる。

ここ数年、年末年始のころはいつも体調が悪かった。そのためか、気分も落ち込み年が明けてもとてもめでたい気分にはなれなかった。今年の初めもまた気分が落ち込んでいて、それが祟ったのか地獄入院につながった。しかし、今年は違う。極めて体調が良いのだ…

SW=生物多様性

おいらは、生物多様性を研究している。なぜ生物は多様なのか。どうやって多様性は維持されるのか。多様であるとなにがおこるのか。おいらにとって、生物多様性はなんとも不思議な存在であり、なぜか魅力的なのだ。 おいらが、生物多様性に興味を持ったのは、…

狂った食欲

大分間があいてしまったが、地獄入院の話を再開しよう。できればこれで最後の話にしたい。 今日は食事の話である。食事は医療以上に病気の治療に効果がある。だから病気持ちの人、病気の予兆がある人、そしてもちろん健康の人も食事を決して舐めてはいけない…

いつの時代にも必ずある幸せ

このブログもずいぶんと堅苦しい真面目な内容ばかりになってしまった。当初はもっとふざけた軽い内容を書いていくつもりだったが、病気のこととなるとどうもそううまく書けないらしい。そんなわけで、今日はふざけた内容を書きたいと思ったのだが、いざとな…

痛みでよみがえる記憶

今年の始めから、朝起きてから午前中の体調がすぐれない。その傾向は、地獄入院から退院した現在も続いている。大体は朝は寒気がして、寒気が酷いときには吐き気もある。体がだるく脈がやや速く息苦しい。朝食後少し横になって休むことも多いが、なかなか良…

ハイゼントラは依然と続く

このブログにアクセスしてくれる方は、ハイゼントラで検索してきた方が多いらしい。というわけで、今日はおいらのハイゼントラ体験の話をしたい。 おいらは、昨年のフォンタン転換手術の後からハイゼントラを始めた。入院中に何度か練習をした後、退院後も自…

至福のひととき

今おいらの幸せな時間は、飲み物を飲むときである。数年前から水分制限のために慢性的に口渇感がひどく、水分を口に含ませるのがとても心地よいのだ。口が渇く原因ははっきりとしないが、多種の利尿剤を飲んでいるせいなのか、ともかく唾液がでにくい。かと…

むしろ負はあった方がいい

今、地球上の生物多様性は急速に失われている。生物多様性は、空気や水を浄化したり、食料、衣服、薬など様々な資源を生み出したり、と人類や他の生物に大きな恩恵を与えていると言われる。生物多様性が減少すれば、こうした恩恵を受けられなくなり、さらに…

ステロイドに蝕まれた末路

気が重い地獄入院の話を再開しよう。 これまでの流れを簡単におさらいすると、新年早々に貧血のためNC病院へ緊急入院。内視鏡検査のためSD病院へすぐに転院し、検査後消化管出血が原因と判明。一旦NC病院にもどるも再検査のため再びSD病院に転院。消化管出血…

PLE発症後の余命を予測する

蛋白漏出性胃腸症(PLE)は、フォンタン術後症候群の中でも特に予後不良とされる深刻な合併症である。その発生率はフォンタン術患者のうち4〜13%で低いものの、一度発症してしまうと治療に難渋し、根治はかなり難しい。死亡率も高く、当初は5年生存率50%程…

スモールフレンドリージャイアント

子供の頃、よく見る夢があった。真夜中の街を巨人が徘徊する夢である。巨人の姿は見えず、どすんどすんと足音だけが聞こえ、おいらは家で寝ながら足音が近づいてくるのをじっと聞いていた。不思議と怖さはなかった。むしろ、巨人は散歩でもして楽しんでいる…

奇跡を起こした飲む点滴

地獄入院が始まってから一ヶ月半が経過した。おいらは、SD病院からなかば逃亡するようにNC病院に戻ることができた。NC病院に移ると入院生活は劇的に快適になった。まず、決定的に変わったのが食事である。SD病院での激マズ栄養ドリンクがなくなり、汁のみメ…

フォンタン術後の消化管出血と蛋白漏出性胃腸症

地獄入院の話を再開しよう。 地獄入院は、貧血がきっかけで始まった。後々わかってきたことは、消化管内からの出血で貧血が起こり、出血は蛋白漏出性胃腸症の延長線上に生じたものだった。以前にも書いたようにそのような症例は極めて少ないが、ほぼ唯一では…

医者が望む理想の患者

今日は山田倫太郎くんの「患者が望む理想の医者:8か条」について、おいらなりのひねくれ解釈をしてみよう。彼は、先天性の複雑心奇形を持ち、たびたび手術を受けながら今も闘病を続ける中学生である。山田くんと8か条については、日テレの24時間テレビで…

心臓が教えてくれる

前回自分なりの経験に基づく教訓を紹介したので、今回ももう一つそんな教訓についてお話ししたい。 自分に迫る危機や困難がどのくらい深刻なのかはなかなかわからない。それは頭で思っているよりも実際はもっと深刻だったりそうでもなかったりする。しかし、…

我慢し続けると人生が終わる

地獄旅行を再開しよう。 おいらには、自分のこれまでの経験に基づいた教訓がいくつかあり、それらの教訓はとても信頼している。そんな教訓の一つに、「どんなつらいこと痛いことも、我慢し続ければ終わる」というものがある。 例えば、心臓病患者が受けるカ…

かわいそうな感情

地獄入院の話はまだまだ続くので、ちょっと箸休めとして別の話題を書くことにする。 先日、NHKのバリバラという番組で、障害者を感動の対象にすることをテーマにしていて、これは同時刻の裏でやっていた日テレの24時間テレビの批判として、かなり評判だっ…